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「愛してなかったら! 一緒になんか住んでいるものか!」
しかしアヤ子は思いとどまった。刺してはしまったが、とどめを刺すことはどうしてもできなかった。
夫はアヤ子に刺された直後、うめきながらもこう叫んだ。
「愛してなかったら! 一緒になんか住んでいるものか!」
アヤ子はその言葉にハッとしたのだという。これこそが、アヤ子の聞きたかった、ほしかった答えだった。
裁判では当然、夫の仕打ちは批難された。アヤ子が自分の意思で思いとどまり、救命したことなども酌量され、執行猶予となった。もっと言うと、この夫がアヤ子を許しているということも大きかった。
自分がひどい仕打ちをし続けたことが事の発端であるにもかかわらず、結果としてこの夫は被害者となり、さらには被害者が加害者を赦すという形になったことで、事情を知らない人からすればなんと懐の深い夫、という風にもなり得た。
アヤ子はといえば、裁判で執行猶予がついたところでなんの救いにもならなかった。夫に傷を負わせた以上、アヤ子は人殺しと呼ばれても仕方なかったし、その夫が望む望むまいにかかわらず、夫とは離婚に応じると言うしかなかった。