欧州の理不尽な「ロシア嫌い」
今回の訪問は、欧州による理不尽な「ロシア嫌い」について改めて考える機会ともなりました。
私に言わせれば、そもそもロシア人は“欧州人”です。トルストイ、ドストエフスキー、ツルゲーネフは“欧州最高峰の文学”。世界に誇るロシア音楽もあり、抽象絵画を発明したのもロシア。こうしたロシア文化が“欧州文化”の一部であることを誰が否定できるのか。
ナチズムの悪夢から欧州を解放するのに、約1500万人もの多大な犠牲を払って、米国以上に貢献したのもロシアです。冷戦後、NATOの東方拡大に反対しつつも、「勢力拡大」よりも「国内の安定と繁栄」を優先するロシアは、「欧州との平和的共存」を常に求めてきました。にもかかわらず、ロシアは理不尽にも、欧州から拒絶されているのです。
ロシアを理解しようとする私の姿勢は、フランスでは稀有なものとなっています。ですから、しがない一人のフランス人にすぎない私も、ロシアでは“ゴミ山に咲く一輪の花”のように見えてしまう。私としても「フランス人のすべてが馬鹿なわけではない」、〔また私は自分の名前を気に入っているので、エマニュエル・マクロンという人物はいるが〕「エマニュエルという人のすべてが馬鹿なわけではない」ことをロシア人たちに示したかった。自国と自分のファーストネームの名誉回復のための訪問でもあったのです(笑)。
モスクワの“驚くべき正常さ”
モスクワでは“驚くべき正常さ”にショックを受けました。
人口統計学者として乳児死亡率、殺人率、自殺率から、ロシアが“正常な国”に戻ったことを確認していましたが、それは概念的な話です。実際にモスクワに行くと、すべてがあまりに正常に機能する完璧なモダン都市でした。
本記事の全文(約10000字)は、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」に掲載されています(エマニュエル・トッド「ロシア・ハンガリーより愛をこめて」)。全文では、トッド氏がみたモスクワの現状、ハンガリーのオルバン首相との会談、ハンガリー国民が持つ稀有な“自信”、ドイツの行く末への考察、トランプ政権の破壊衝動などについて語られています。
