トランプ大統領からの制裁 危機に瀕している「法の支配」

 2025年に入ると、一気に事態が動きました。1月3日、アメリカ共和党の議員がICCに対する制裁法案を下院に提出。前年に審議された法案とほぼ同様の内容です。提出から6日後の1月9日、下院で可決。1月20日にはトランプ氏が大統領に就任します。

 1月28日、民主党の議員の多くが採決へ進むことに反対したため、上院での法案の審議はストップしました。しかし、反対に回った民主党の議員たちの間にも、ICCに対する反感は共有されていた。そして2月6日、トランプ氏はICCの職員や関係者への制裁を可能にする大統領令に署名します。

トランプ大統領 Daniel Torok, Public domain, via Wikimedia Commons

 当然のことながら、制裁はICCに暗い影を落としています。スタッフの誰もが、常に制裁のことを意識しながら仕事をしている現状があります。

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 日本を含め、締約国の動きが鈍いことは本当に遺憾です。大国が思うがままに行動し、ICCをつぶすようなことを許してしまえば、国際社会における「法の支配」は崩壊してしまう可能性が高い。それだけの危機にあるという認識が、締約国の間できちんと共有されていないと感じます。

 ICCが誕生するまでの過程には、先人たちの多大な苦労がありました。第二次世界大戦終結後、長い時間をかけて機運を高め、法的な環境整備を進め、多くの国による困難な交渉を経て、1998年にようやく設立が合意されたのです。ICCが消滅してしまった場合、もう一度同じような苦労を重ねて、改めて常設の国際的な刑事法廷を設置することができるでしょうか。現在の国際情勢を見れば、それは不可能だと思います。

国際刑事裁判所のルーツの一つである極東国際軍事裁判市ヶ谷法廷大法廷 写真秘録『東京裁判』、講談社、第1刷, Public domain, via Wikimedia Commons

 だからこそ、私たちはどうしても存続していかなくてはならない。締約国には、引き続き支援を呼び掛けていくつもりです。