フィリピンのドゥテルテ前大統領を逮捕

 2025年3月11日、ICCが発付した逮捕状にもとづいて、フィリピンの警察当局がロドリゴ・ドゥテルテ前大統領を逮捕しました。容疑は、彼が指揮した「麻薬戦争」をめぐる人道に対する犯罪です。

 ドゥテルテ氏は、大統領を務めていた2016年から2022年にかけて、違法薬物の撲滅を掲げ、警官による密売人の超法規的殺害を容認したと報道されています。十分な取り調べが行われないまま多くの人が殺され、無実の人物も含まれていたとみられている。フィリピン政府の集計で死者は6000人を超え、実際は数万人に及ぶとの見方もあります。

公判手続きの開始を秋に控えるフィリピンのドゥテルテ前大統領 via wikimedia

 ICCは、2018年2月にベンソーダ前検察官の発意で捜査を開始しました。フィリピンは2019年3月にローマ規程から脱退しましたが、それ以前に起きた犯罪については管轄権が及ぶと判断されています。フィリピン当局も、この判断に従ってドゥテルテ氏を逮捕したようです。

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 逮捕されたドゥテルテ氏は、ハーグのICC本部に移送されました。3月14日には裁判所への出頭に伴う最初の手続が行われています。次回の犯罪事実確認のための公判廷における手続は9月23日に行われる予定です。予審第一部の裁判官が検察側と弁護側の主張を聞いた上で、十分な証拠があると判断すれば、犯罪事実の確認を行い、事件を第一審部に送って、公判が開かれることになります。

 移送時や予審手続の際には、ICC本部前にドゥテルテ氏の支持者たちが集まり、今回の逮捕に抗議の声を上げていました。一方で、逮捕を支持する人たちも集まっていた。フィリピン国内でも、意見の対立が広がっていると報道されています。しかし、私たちはいつも通り、証拠と法にもとづいて判断を下すだけです。ICCを取り巻く政治状況には一切左右されません。

任期満了まで全力で奮闘する

 アメリカによる制裁も含め、どんな政治的な動きがあろうとも、国際法に則って粛々と捜査を行い、公判を続ける。その姿を世界に示すことが大事だと私は思っています。「困難に負けずICCは頑張っているよ」と発信したい気持ちもあるのですが、強調しすぎると政治的なメッセージと受け取られかねない。やはり、裁判所として確かな活動を続けることで、その重要性を理解してもらうのが一番です。

『戦争犯罪と闘う 国際刑事裁判所は屈しない』(文春新書)

 ICCの裁判官や職員たちは、いま本当に大変な状況にあります。制裁の対象がどこまで広がるかわからないため、不安は大きいし、業務量も増えている。そんな中でも、中立性と独立性を守り、法の番人として着実に職務を果たす彼ら・彼女らのことを、私は誇りに思っています。

 私の任期は2027年3月10日までです。この日まで仲間とともに、全力で奮闘していきたい。まさか自分がこれほどの重責を担うことになるとは想像していませんでしたが、与えられた役割を引き受けて、使命を果たすつもりです。

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