「皮は剝ぎ取られ、まな板の上で細かく切り刻まれた」

 毛の1本も残さないよう、皮は剝ぎ取られ、入れ墨が分からないようまな板の上で細かく切り刻まれた。肉や内臓は袋にひとまとめにされ、村内の橋から川に流された。

 とはいえ、排水口から流れたものもあるはずだ。風呂の排水経路は徹底して調べる必要がある。島崎に下水の配管を尋ねると、自分で作った住まいだけに、敷地内の配管まで詳しく説明してみせた。

 案の定、排水は地面への浸透型(下水を排水路へ流さずに、浸透マスにためて地中に浸み込ませる排水方式)だった。敷地を全部掘り返して、浸透マスや排水管の内部まですべて調べる必要がある。この家と敷地だけではない。

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 いずれ、今日確認してきた、峠、川の検証・捜索活動をやることになる。あれほど追いかけてきた事件の現場に立っているという感慨はない。実務的なことばかりが頭をよぎる。この後、膨大な作業を担当するのは鑑識と科捜研の捜査官たちである。

 彼らは、それを担う体制と大変なミッションを背負うことになる。すべてを仕切ることになる横溝(仮名)課長の顔が浮かんだ。正直なところ、この時は、被害者たちに思いを馳せる余裕はなかった。

写真はイメージ ©アフロ

「平然と肉や臓器を捨てたのか」それまで経験した事件とは違う“邪悪さ”を感じた

 16時50分にポッポハウスを出て、第9現場の県道にかかる橋に着いたのは、17時15分だった。 

 冬の薄暮は所々闇が濃い。その橋の下に流れる清流の水面は暗いが透明度の高い流れだと分かる。

 島崎は、そこに、岡崎(仮名)さんの肉や臓器を投げ棄てたと説明した。

 さらに、17時25分。最後の確認場所である。第10現場に着いた。すでに闇は濃い。ここでは、安藤氏、松井さん、関田さんの肉や臓器を投げ棄てたという。第9現場と同様、村内の川にかかる橋だった。

 私が少年の日に魚釣りをしていた場所とよく似た川、風景が広がっている。

 こんなところに、平然と肉や臓器を捨てたのか――。焼く、埋める、溶かす……それまで経験した事件で見た損壊や遺棄の概念とは明らかに違う。

 人間の犯罪にボーダーラインというものがあるなら、それを易々と飛び越えるような邪悪さを感じた。

 本来なら、厳かに荼毘に付され、弔われるはずのご遺体である。そのごくごく一部がようやく見つかったというのに、それは惨劇の「痕跡」「物証」と呼ばれ、遺族の元に帰ることは叶わない。見つかった場所さえも、今は伝えることさえできない。