歌手の中森明菜が1988年3月にリリースしたアルバム『Stock』には「CRYSTAL HEAVEN」という曲が収録されている。一夏の幻のような恋を歌い、真夏の炎天下に聴くのにぴったりなナンバーだ。
この曲の作詞者としてクレジットされている「YUKO」とは誰あろう、女優の浅野ゆう子だ。浅野は当時、中森と所属する芸能事務所の研音の先輩・後輩という関係だった。ついでにいえば二人は誕生日も近く、7月13日生まれの中森に対し、5歳上の浅野はきょう7月9日、65歳の誕生日を迎えた。
浅野は1985年から作詞を手がけており、自身の歌手として最後のシングル「NOMBRE NOIR(ノンブル・ノワール)~抱かれるままに~」に続き、元ピンク・レディーの増田惠子に「FU・RI・NE(ふ・り・ん)」という曲を、本名の赤沢裕子から1字を使った「裕美(ゆうみ)」名義で提供している。
中2で歌手デビュー、俳優としてのブレイクまでは時間がかかった
当時、浅野は25歳。中学2年で歌手デビューしてからすでに10年以上が経ち、歌に見切りをつけて俳優としてやっていこうと決意しながらも、なかなかブレイクの糸口がつかめずにいた。むしろこのころは、男性誌のグラビアモデルとして注目されることのほうが多かった。
作詞にチャレンジしたのも、仕事があまりなく、時間だけはたっぷりあったからだった。《もし仕事の運がめぐってこなかったら、私は作詞家の道を歩んでいたかもしれない(またまた!?)》と本人はのちに著書で冗談交じりに書いている(浅野ゆう子『転がる女にコケはつかない』扶桑社、1993年)。
「もし仕事の運がめぐってこなかったら」とあるとおり、浅野の俳優としての運は初めて作詞した翌年、1986年あたりから回ってきた。この年、TBS系の連続ドラマ『となりの女』で主演の大原麗子の妹役に起用され、一人の男性をめぐる姉妹の戦いを好演し、演技力が高く評価される。


