「これほどの屈辱がありましょうか」制裁対象に加えられた裁判官の嘆き
制裁がもたらすのは経済的な困難だけではない。より深刻なのは、人間の尊厳を根底から揺さぶる心理的な影響だ。追加制裁の直後、緊急で開かれた裁判所内の裁判官会議で、対象となった一人の裁判官は涙ながらにこう訴えたという。
「『私は多くの締約国から支持され、ICCが掲げる使命に貢献すべく仕事に邁進してきました。しかし、仕事のせいで、テロリストたちが載る経済制裁リストにISIS(ルビ/アイシス)のメンバーと並んで載せられたのです。自分の裁判官としての、また個人としての尊厳と信奉する価値がものの見事に否定され、おとしめられました。これほどの屈辱がありましょうか。私たちは裁判官である前に一人の人間です。私たちの人間性を否定するような許し難い行為であります』。……彼女が泣きながら訴えるのを聞き、私ももらい泣きを禁じ得ませんでした」
その瞬間、他の多くの裁判官たちもハンカチで目を押さえていたという。今思い出しても胸が詰まる、と赤根さんは言葉を継いだ。
分断を狙うトランプの制裁
今回、制裁対象に選ばれたのはアフリカや南米、東欧出身の裁判官たちだった。一方で、ネタニヤフ首相に逮捕状を出した裁判官のうちフランスの判事や、アフガニスタン関連で該当するはずのカナダの判事は対象から外れた。赤根さん自身も対象ではない。
「これは一体何を意味するか、すぐにお分かりになると思います。第一次トランプ政権の時も、アフリカ出身の検察官と部下だけが制裁対象になりました。非常に選択的かつ差別的な方針であり、締約国や裁判官同士の団結を揺るがしかねない危険をはらんでいます」
この危機に対し、裁判官たちは共同で声明を発表。「外からのいかなる圧力にも屈せず、裁判官の独立と中立性を守り、法の支配を守り抜く」という決意を世界に示した。

