幕府は米穀売買勝手令をふたたび発布するなど、米の流通を促そうとしたが、米を買い占めて利益を上げようとする商人が次々と現れ、効果は得られなかった。

幕府は「大豆を主食に」と勧めるも…

発火点は大坂だった。天明7年(1787)5月、大坂で米を買い占めている商人への打ちこわしが起き、大坂中に、続いて関西全域に飛び火し、あっという間に東北から九州まで拡大。この月だけで全国30以上の都市で打ちこわしが発生し、ついには江戸にも広がった。

このころ江戸では、米価が2年前の2倍、3倍に高騰し、そもそも米を入手できなくなった。米価高騰のあおりでほかの食糧の入手も難しくなり、生活苦にあえぎ、両国橋などから隅田川に身を投げる人が続出したと伝えられる。町奉行所は5月19日、大豆を主食として勧める町触まで出したが、効果はなかった。

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5月20日、赤坂(千代田区赤坂近辺)の米屋が襲われたのを機に、江戸中で500軒を超える商家が打ち壊された。

ところで、「べらぼう」で渡辺謙が演じている田沼意次が失脚したのは、飢饉が全国へと広がった天明6年(1786)8月で、江戸で打ちこわしが相次いだのちの天明7年(1787)の10月には、あらためて蟄居を命じられ、残された領地もほとんど召し上げられた。むろん、浅間山の大噴火からの天変地異と飢饉、それを発端にした治安悪化等の責任を取らされた面が否定できない。

だが、それだけではない。浅間山の噴火が大きな原因となった世界的な飢饉は、1789年のフランス革命の原因のひとつになった、とも指摘されている。鎖国をしていた日本における米騒動は、こうして世界とつながっているのである。

香原 斗志(かはら・とし)
歴史評論家、音楽評論家
神奈川県出身。早稲田大学教育学部社会科地理歴史専修卒業。日本中世史、近世史が中心だが守備範囲は広い。著書に『お城の値打ち』(新潮新書)、 『カラー版 東京で見つける江戸』(平凡社新書)。ヨーロッパの音楽、美術、建築にも精通し、オペラをはじめとするクラシック音楽の評論活動も行っている。関連する著書に『イタリア・オペラを疑え!』、『魅惑のオペラ歌手50 歌声のカタログ』(ともにアルテスパブリッシング)など。
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