「キネマ旬報」では「興行価値 エログロを狙った添え物映画だが、まず興行的には無難」とされ、同年9月に『執念の蛇』(三隅研次監督、島田竜三主演)、翌1959年1月には『青蛇風呂』(弘津三男監督、島田竜三主演)が公開されて「大映の『蛇』シリーズ3部作」が完結。3作を通して裸で蛇と絡む役を演じたMは「蛇女優」と呼ばれるようになった。
『執念の蛇』でも「水中で蛇に絡まれ、胸や腿もあらわになったMの身体は、この作品の最大の見せ場であるといえるだろう」(志村三代子「怪物化する女優たち―猫と蛇をめぐる表象」)=内山一樹編『日本映画史叢書(8)怪奇と幻想への回路』(2008年)=と評された。
女優Mとのドライブ中に…妻子持ちの男性が死亡
それから10年余り。1969(昭和44)年12月15日付の兵庫県の地元紙・神戸新聞は社会面3段、写真付きで次のように報じた。
Mとドライブ中 旅館主が自殺 刃物なく不審な点も 広峰山中
14日午後4時ごろ、姫路市白国の広峰山中で同市の旅館経営Tさん(40)とドライブに来ていた京都市右京区、女優Mさん(36)が「救急車を呼んでくれ」と通りがかりの車に救いを求めた。
2人が乗っていた車の運転席にはTさんが血まみれになってハンドルにもたれており、姫路市内の病院に運ばれたが、同7時半ごろ、出血多量で死亡した。Tさんは病院で「腹を自分で刺した」と言っているが、車内には刃物が見当たらないなど不審な点があり、姫路署はMさんから事情を聴いている。
Mさんは「車を止めて1時間ほど休憩して、後部座席で仮眠中、ドアが開く音で気がついたら、Tさんがハンドルにうつ伏せになっていた」と話している。同署の調べでは、Tさんの腹部の傷は長さ4センチでかなり深く、同署は15日、あらためて遺体を調べるとともに現場検証を行う。
同じ日付の読売は「ドライブで怪死」の見出し。被害者の周辺に詳しく、事件の“筋”をつかんでいるような書き方だ。
Tさんは両親と妻、女児2人の6人暮らし。旅館を経営する傍ら、芸能人の斡旋業もしており、Mさんとは8年前から内縁関係で、2歳の幼児を姫路市内に預けている。最近別れ話が出ており、この日、Mさんは撮影の合間にTさんを訪ねた。
Tさんの父の話 「2人の仲は以前から知っていた。息子が自殺するような原因は思い当たらない」
神戸の15日付夕刊は社会面最下段にベタ(1行見出し)で、現場近くの雑木林から刃渡り約30センチの包丁が見つかったことと、Tさんの服のポケットから「気分が悪い」などと走り書きしたメモが見つかったと報じた。そして同紙の16日付朝刊――。

