センセーショナルに報じられた「女優の犯罪」
同じ日付の大阪朝日は、近く封切予定の『秘録怪猫伝』(田中徳三監督、1969年)にも出演していると記述。「グラマー女優で鳴らしたM」が記事の書き出しの大阪毎日は、約8年前、MがTさんの父親が経営している高岡温泉ヘルスセンターでショーに出演した際、妻子のあるTさんと親しくなったことに加え、Tさんが死ぬ前に「自分でやった。詳しいことは聞かないでくれ」と言い残したと書いている(この言葉の意味は最後まで不明)。さらに読売は調べの状況を次のように伝えた。
Mは15日午前8時から同署(=姫路署)で取り調べを受けたが、犯行を自供するまでの約12時間はスクリーンさながらの“演技”の連続で『私は何もしていない』とか『誤って刺さった』と言い張り、ポリグラフ(ウソ発見器)の検査も進んで受けた。夜になって捜査員が『もう、いいかげんにしろ。映画ではないんだ』と一喝すると、声をあげて泣き伏し、ようやく午後11時、『Tがどうしても別れると言うので、リクライニングシートに寝たところを一突きにした』と自供した。
「Mが身振り手振りで“演技”を披露し、刑事が『映画ではない』と一喝して自供に追い込んだ」という記述はほかの新聞にも見られるが、本当にあったことなのか。報道には全体的に、芸能人の「犯罪者」に対する興味本位で意地の悪い視線が感じられる。その極めつけの1つは東京新聞の同じ日付の主見出しだ。「化けネコ女優が殺人」。
さらに東京は12月17日付朝刊「こちら特報部」で事件を取り上げたが、見出しの1本は「“ヘビ女優”の悲しい業」だった。これらによるMの「猟奇的で恐ろしい女」のイメージがその後の週刊誌、雑誌などのすさまじい報道のトーンを決定づけた。
