「グラマー」という言葉も最近はすっかり使われなくなった。アメリカでは「グラマーガール」と呼ばれ、辞書には「体格がよくて、性的魅力のある女性」などとある。

 かつての日本の映画界にも「グラマー女優」と呼ばれる女性たちがいた。今回取り上げるのは、その1人による「現役女優初の殺人事件」と騒がれた1969年の犯罪。その女優は映画で蛇と絡み合うシーンを演じ名を売ったことから、事件は「蛇女優が愛人を殺害」とセンセーショナルに報じられた。華やかな世界にあこがれ、サクセスストーリーを体現したかに見えた彼女の実像とは、どのようなものだったのか?

 当時の新聞記事は見出しはそのまま、本文は適宜書き換え、要約する。文中いまは使われない差別語、不快用語が登場するほか、敬称は省略。女優「M」と被害者「T」は仮名にする。(全3回の1回目/続きを読む)

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「一糸まとわぬ女の肌を執念の白蛇が()いまわる……一匹、二匹……」。1958(昭和33)年6月15日、そんな新聞広告とともに1本の映画が公開された。

 日本の映画界はこの年、新作2本立てを競うようになっていたが、「猫でギョッとし蛇でゾッとする怪奇大型映画2本立て」と銘打ち、『怪猫呪いの壁』(三隅研次監督、勝新太郎主演)と2本立ての『白蛇小町』(弘津三男監督、梅若正二・中村玉緒主演)。江戸時代の武家にまつわる因縁話で幽霊も登場する。

映画『白蛇小町』の新聞広告。公開当時Mは25歳だった(夕刊読売)

「蛇を愛撫し恍惚となるシーンが圧巻」「女優がまだ生硬」映画には賛否

 映画雑誌「キネマ旬報」1958年8月上旬号の評はこうだ。

 映画の比重は、どうやら幽霊女になるMにかかっているように思う。彼女は幽霊になる一方、半裸の姿で蛇とたわむれたりする。“蛇のグラマー”で話題を投げた人だから、会社もそこを利用したのだろう。が、この場合、蛇はドラマには一向に無関係だし、思ったほどのエロ味もグロ味も出ていなかった。Мという女優がまだ生硬で、お色気といったものが感ぜられないためであろうか。

 しかし、二階堂卓也「蛇女優Mをご存知ですか?」=「映画論叢63」(2023年)所収=は「行水のあと、床に寝転んでヌラヌラした蛇を顔や首に押しつけ、あるいは愛撫し、恍惚となるシーンが圧巻」と書くほど、一部のファンにはカルト的な人気があるようだ。