今回取り上げるのは、「現役女優初の殺人事件」と騒がれた1969年の犯罪。

 その女優は映画で蛇と絡み合うシーンを演じ名を売ったことから、事件は「蛇女優が愛人を殺害」とセンセーショナルに報じられた。華やかな世界にあこがれ、サクセスストーリーを体現したかに見えた彼女の実像とは、どのようなものだったのか?

 当時の新聞記事は見出しはそのまま、本文は適宜書き換え、要約する。文中いまは使われない差別語、不快用語が登場するほか、敬称は省略。女優「M」と被害者「T」は仮名にする。(全3回の2回目/続きを読む)

Mの事件は当時人気の劇画にも取り上げられた(「サンデー毎日」より)

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「女優M」の経歴は「キネマ旬報増刊12.31号 日本映画俳優全集・女優編」(1980年)に従おう。

 1933(昭和8)年4月25日、高知県宿毛町(現宿毛市)生まれ。生家は呉服商。県立高校を卒業後、大分県別府市のホテルでレジ係をしていた55(昭和30)年、ミス温泉コンテストで1位となる。

 早くもここに誤りがある。このコンテストのことは新聞記事になっている。1954(昭和29)年1月29日付読売朝刊社会面コラム「いずみ」だ。

▽“新時代の温泉にふさわしい清新な美人”を選び、宣伝のタネにしよう? という全国の温泉地推薦「ミス温泉」の最終審査会が28日午後、東京・銀座のレストランで開かれた。

 

▽集まったのは投票、写真審査などでより抜かれた和装、洋装とりどりの11人。那須、別府、板室、熱海、伊東、鳥取、有馬、城崎や、遠く北海道・登別から飛行機で参加した人もいた。

 

▽映画監督の山本嘉次郎氏を委員長格に舟橋聖一(作家)、木村三津子(女優)両氏ら審査員6人が「後ろ向け」「笑って」「手を見せて」などなど、注文を出し、アレコレ演技のすえ、「ミス温泉」に別府温泉の案内係Mさん(20)が決まった。純銀のカップ、副賞10万円、電蓄(音楽プレーヤー)、ミシンなどたくさんの品を獲得したが、「客がまた増える」と旅館の館主はニコニコ。

女優Mが「ミス温泉」に選ばれたことを報じる読売

 経歴に戻ると「その後、上京し、俳優座の委託研究生を経て1956(昭和31)年、大映に第10期ニューフェースとして入る。同期に田宮二郎*がいる」とある。実はこの間の約2年にすさまじい展開があったようだ。
*映画『白い巨塔』(1966年)などで知られるトップスター