主人公が死体を片づける物語

「ガンダム」シリーズは戦争を描いてきた。この点『ジークアクス』はマチュやニャアン、そして過去作に登場したキャラクターたち個人の物語という側面が強く、戦争のメカニズムや過酷さを描く姿勢は後景に退いている(戦場ジャンキー的な気質のシイコ・スガイは例外的な存在と言える)。

『閃光のハサウェイ』は戦争を描くという姿勢を特に強く引き継いだ作品だ。2021年に公開された劇場アニメ1作目の見せ場は、人間同士の殺し合いである。

 冒頭、ハサウェイが乗ったスペースシャトルがハイジャック犯に占拠され、これを撃退するわけだが、モビルスーツ戦ではなく、生身の人間同士の血なまぐさい争いから幕を開ける物語なのだ。しかも、主人公のハサウェイが最初に取る行動は、死体の片づけである。

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 主人公が死体を片づけるところから始まる物語というのも珍しい。しかし、この描写は本作が人の血なまぐさい生き死にを描き、ハサウェイが死体に慣れた、どこか異常さを帯びた存在であることを端的に描写する巧みなシーンだ。

『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』公式Xより

 その他、本作の見せ場となるのは、ハサウェイがギギを連れて、モビルスーツの急襲から逃げ回るシーンだ。生身の肉体の視点から見上げられるモビルスーツの巨大さが、これは恐ろしい兵器なのだということを物語り、巨大兵器が跋扈する戦場の恐怖をありありと伝える。

 しかも、逃げ惑う民間人が大量に死ぬ。市街戦で民間人の犠牲が描かれる点も『ジークアクス』とは対照的だ。

 総じて、ロボットの華々しい活躍よりも血なまぐさい戦場の怖さの方が前面に押し出された描写が多くみられるのが特徴で、同じ「ガンダム」シリーズでも、ここが『ジークアクス』とは大きく異なるポイントだ。