最初の推しが見せてくれた最後の夢
9回ウラ、最後の打席が推しに回ってきた。これで最後だ。最後なのだ。タオルの花畑も、祭へと誘う登場曲も、地響きのような歓声も。推しの引退を本気で寂しがるアイドルファンの気持ちがわかった。
例の少年は、未だ応援歌を歌っていた。必死に叫ぶ少年の姿は、かつてのわたしそのものだ。そう確信した。この数分は、観る側にとっても最後の時間だ。最後の応援に全力を尽くそう。少年に負けじと推しの応援歌を歌った。結局、推しは三振に倒れた。だが、右翼ポール際に大飛球を放った。「浪速の轟砲」という言葉がよく似合う一振りだった。最初の推しが見せてくれた最後の夢だった。涙が出そうになった。
引退のスピーチと胴上げを見届け、帰路につこうとした。ドームを出て、ふと後ろを振り返った。思い出の宝庫がそこにはあった。夢をありがとう。推しがいた時代に一区切りをつける意味をこめて、深々と頭を下げた。
数か月後、久々にニンテンドー3DSの録音機能をいじった。2015年の日付とともに、推しの応援歌を歌うわたしの声が録音されていた。わたしは、推しを最後まで愛することができた。幸せ者だった。
年が明け、また新しいシーズンが始まった。推しはバファローズのアンバサダーに就任した。一方のわたしは、第一志望ではない大学に入学した。これからも色々とうまくいかないことがあるだろう。それでも、新たな夢を見るためにわたしはドームへと足を運ぶに違いない。ヨレヨレのバファローズのキャップに、「T-OKADA 55」のピンバッジをつけて。
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