日常を変換してみて
「エドワードへの感情移入をここまで実現できたのは、うれしい驚きでした。今回、私は“ひとりの人物を全シーンに登場させる”ルールを設け、作品をよりエンターテイニングにすることを心がけました。そしてセバスチャンは期待通り、大きな役割を果たしてくれました」
エドワードを演じたのは、昨年『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』でアカデミー賞主演男優賞にノミネートを果たしたセバスチャン・スタン。己の外見に翻弄される主人公の心情を細やかに表現している。
「この役柄について話す中で、彼の心の中に強く響く何かがあることがわかりました。それは他の役では表現する機会がなかった彼自身の内面の葛藤だったのだと思います。彼は非常にハンサムですから、特定の役柄でキャスティングされがちですが、本作ではその枠を外れた表現をすることができたのでしょう」
役作りのために、シンバーグさんが彼に伝えたアドバイスがとても示唆的だ。それは、「君が街を歩くと非常に多くの目を集めるだろう。でも、その視線の理由が憧憬や羨望ではなく嫌悪や憎悪だったら? 君にとっての日常を、そう変換して捉えてみてほしい」。
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配給:ハピネットファントム・スタジオ
もうひとりの主人公
そして、アダム・ピアソンの起用は本作の核であり、「彼と出会っていなければ、私はオズワルドのようなキャラクターを思いつくことすらなかったでしょう」と語る。
ピアソンは、神経線維腫症1型の当事者であり、障害者の権利向上に取り組む活動家で、ドキュメンタリー番組に多数出演。さらに俳優としても活躍しており、実はシンバーグさんによる監督長編2作目『Chained for Life(原題)』では主演を務めている。
「アダムは私が知る誰よりもカリスマ的で、『僕の顔は、僕という人間の中で最も面白くない部分だよ』と言うのですが、それは全くその通り(笑)。本作は、これまで映画で見せたことがない、そんな彼の本当の姿を描きたかった。もちろんフィクションとしての脚色にも彼は快諾してくれました。私たちの間には、芸術上の深い信頼があるのです」
シンバーグさんが描きたかったものとは。単なる“世にも奇妙な物語”ではない結末にも注目してほしい。
Aaron Schimberg/アメリカ、イリノイ州出身。ニューヨークを拠点に活動。口唇口蓋裂の矯正治療を受けた経験にインスピレーションを得て、外見やアイデンティティをテーマにした独創的な世界観の作品を発表。本作で、シッチェス・カタロニア国際映画祭で最優秀脚本賞受賞、ゴッサム・フィルム・アワードでは最優秀作品賞を受賞。
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映画『顔を捨てた男』
2023年/アメリカ/112分/原題:A Different Man
(公開中)
配給:ハピネットファントム・スタジオ
https://happinet-phantom.com/different-man/




