1時間ほど経ったころ、突然ユパ号の様子が変わった。耳をピンと立て、上の方を気にしている。

「ユパの耳の動きや反応から、何かを感じ取っているように見えました。斜面を見上げて藪に目を凝らしたところ、ズボンが見えたんです。声をかけると反応があり、急いで周辺の署員に知らせました」

 発見は午前11時24分、自宅から約240メートル離れた場所だった。男性は道路脇の急斜面で足を滑らせ、竹林に転落したという。ユパ号と湯山さんが捜索をしていたのは、その下方のエリアだ。

ADVERTISEMENT

「においが上から落ちてきたのをうまく取ってくれたんだと思います。ユパがしっかり仕事をしてくれて、発見につながりました」

 行方不明者を無事に発見し安堵したのも束の間、ユパ号には次の現場が待っていた。

移動して再び行方不明者を発見

 午後、ユパ号と湯山さんは県西地区から湘南地区の逗子市へ向かった。逗子警察署管内で、高齢女性の行方不明事案があり、警察犬の出動要請がかかったのだ。

 現場では既に周辺の防犯カメラ映像を確認し、女性の足取りがある程度しぼりこまれていた。近くの森の竹藪を立ち回り見込み先として目星がつけられ、午後2時、ユパ号は活動を開始する。ここでは、ユパ号に加えてジャーマン・シェパードのアサヒ号も捜索に加わった。

 竹藪に入って活動をするなか、湯山さんはリードを突然引っ張られた。

「ユパがリードを引き、藪の方に顔を向けてじっと見つめたのです。ただ、ユパは猫や野生動物にも反応するので、猫がいるのかなとも思って。『次、行くよ』と促したのですが、それでもかたくなに動かないため、じゃあ、と回り込みました」

訓練のために湯山さんがユパ号を連れてきた。訓練を楽しみにしているのだろうか、ユパ号の足取りは軽い

 そこには竹に掴まった状態で立ちすくむ女性の姿が。湯山さんが声をかけたところ反応があり、無事に発見し保護することができた。時刻は午後3時10分、活動を開始して1時間ほどのことだった。

 午前と午後、立て続けに2件の行方不明者の発見に貢献したユパ号。訓練所に戻って、大好きなボール遊びを楽しんだという。後日、松田警察署と逗子警察署から表彰を受け、新聞やテレビでも活躍が取り上げられた。