「あの事件のほかにも殺人、自殺が原因で数部屋が事故物件になっています。すぐ隣のマンションでも自殺が多発していて…」

 物騒な事件ばかり起きる、新宿歌舞伎町のあるマンション。そこだけトラブルが多発する特殊な事情とは? ライターの國友公司氏の文庫新刊『ルポ 歌舞伎町』(彩図社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/最初から読む)

写真はイメージ ©getty

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「同業者が住んでいないマンションに住みたい」

 歌舞伎町の近辺(東新宿エリア)に住む風俗嬢たちの悲願、それは新宿六丁目にそびえ立つ地上三十二階建ての「コンフォリア新宿イーストサイドタワー」に、担当ホストと同棲することである。

 歌舞伎町は風俗の街と言ってもいいが、なにも風俗の街は歌舞伎町だけではない。

 風俗は日本各地に散らばっており、ソープランドだけで考えればやはりメッカは台東区の吉原であり、川崎の堀之内だ。つまり、歌舞伎町近辺に住んでいるのはホストクラブに通い詰める一部の風俗嬢ということになる。

 深夜になると東新宿エリアでは、ホストと風俗嬢の同棲カップルがペットのチワワをガードレールに括りつけ、スーパーマーケットのマルエツで買い物をする姿をよく目にする。

 しかし、担当ホストとの同棲という夢を叶えた彼女たちには、一生解決することのない悩みがある。歌舞伎町にある水商売専門の不動産会社で働く社員は、いつも彼女たちの不毛な相談に明け暮れるという。

「コンフォリア以外にもホストや風俗の子に人気のマンションはいくつかあります。彼女たちはいつも、“同業者が住んでいないマンションに住みたい”と言うんです」