看護師たちの手記を読んで
──それぞれの役をどのようにとらえましたか?
菊池 私が演じた田中スミは、3人のなかで一番、少女のままの無垢さが残っていると感じました。はじめに脚本を読んだ時は、スミのことが好きになれなかったんです。恵まれた環境にいるのに、「自分の正義」を見つけられず、ウジウジしていて……。確たる信念のようなものももっていないスミに、怒りのような感情も抱いていました。
でも、実際演じていくうちに、仕方ないと思えるようになりました。なにしろまだたった17歳という年齢です。私だって同じ状況にいたら、きっとスミのように悩んだりウジウジしたりするだろうと思ったら、スミが何を考えて生きているのか、少しずつ理解できるようになりました。
川床 ミサヲは「3人のなかで自分は一番失ったものが少ない」と感じていたのではないかと思います。苦しむスミやアツ子にどう寄り添ってあげられるかをいつも最優先で考えていて、そういうミサヲの人として素敵なところを大切に演じました。
ミサヲはカトリック信者なのですが、私自身、深い知識をもっていなかったので、信仰をもつということがどういうことなのか、「信じる」とはなにかということについては、撮影期間中ずっと考えていました。
小野 私が演じた大野アツ子は、3人の中で、特に達観している大人っぽい性格かな、と思います。すごく人間らしい部分がたくさんあって、そういう意味では共感できるところがたくさんありました。「軍国主義的な価値観をもつ、勝ち気なお姉ちゃん」というイメージで、役に挑んだのですが、方言が難しかったです……。方言という制約がありつつも、感情が揺さぶられるシーンが多かったので、大変でした。
──役作りで大事にしたことは?
菊池 本作の原案となった手記との乖離がないよう、「誇張しすぎない」ことを意識しました。また、他人事ではなく、リアルな生活で起こる感情の揺れや動きを、「1945年を生きる人」として表現できるよう努めました。
川床 私も、手記にあった言葉は強く意識しました。手記を読むと、「友達がこう言った」とか、「こういうことがあった」という生の声も結構書かれていて。自分の想像力の引き出しにはない言葉が多かったので、役作りに活かしました。
小野 私は自分の「知らない」を埋めるために、あらためて原爆ドームに行きました。学校でも戦争について、原爆のことについて、などは習ってきましたが、実際に原爆ドームへ行ってみたら、外国人の方々が非常に多かったことも印象的でした。人の感情を揺さぶる大きなできごとだったことを、あらためて感じました。
川床 私も当時のことを知るために、監督と一緒に原爆の映像資料をビデオで見ました。また、監督が3人の関係性を作るために、一緒に編み物や刺しゅうをして過ごす時間を作ってくださったことも非常に役立ちました。撮影に入る前から、3人の関係性が構築でき、ありがたかったです。

