必死にリヤカーを押さえた下り坂のシーン

──印象に残っている撮影シーンはありますか?

菊池 アツ子とミサヲが喧嘩をするシーンです。被爆後に3人が再会し、限られた物資で必死に救護活動を続ける中で、アツ子の怒りと、それを許したいミサヲの気持ちがぶつかり合うシーンがあるのですが、ふたりの熱量に心の中で震えが止まりませんでした。

小野 「さあ、このシーンを撮るぞ」という気持ちが揃っている中で、急遽1時間半くらいの待ち時間が生じたことがありました。1時間半、気持ちを保つのが大変だった記憶があります。言葉も交わさず、3人それぞれの方法で集中してただ待っていた。それがすごく異様な空間で……。今となっては懐かしい思い出です。

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川床 私は3人一緒にリヤカーで坂を下るシーンです。長回しの一発撮りで、ゆっくり坂を降りていかなくてはいけないシーンでしたが、重力がかかって早く転がり落ちそうになるんです。リヤカーを必死に押さえ、集中して撮影に向かったのが印象に残っています。

小野 作品を通して、段取りテストをほとんどしない撮影でした。監督からは、テクニカルな部分の演出もほとんどありませんでしたが、日菜ちゃん、明日香ちゃんとはもちろん、監督ともスタッフのみなさんとも強い信頼関係ができていたので、どんなに大変なシーンでも不安は感じませんでした。それよりも、「ここまで積み重ねてきたものをどんな形で表現できるんだろう」というワクワク感のほうが強かったように思います。

小野花梨さん

菊池 監督には、動きやセリフの入れ方も、ある程度任せていただきましたよね。主体的に動き、段取りも自分たちで考えながら仕上げていけたのは、難しかったですがありがたかったです。