道を行くエジプトの人々は実にパワフルだ。けたたましくクラクションを鳴らしたり、日本人が珍しいのか、こちらに手を振ってきたり。堺さんは車窓の景色に目をこらしながら、次々と質問を投げかけてきた。ピラミッドのこと、建造したファラオたちのこと、その後の歴史のこと。目の前を走るラクダを乗せたトラックは、どこから来て、どこへ行くのか。エジプトのけん騒に、長旅の疲れも吹き飛んだようだった。
堺さんは、歴史をこよなく愛する人だ。旅のさなかには、中学生の頃から愛読しているという司馬遼太郎の話で大いに盛り上がった。大河ドラマ「真田丸」を始め、NHKの時代劇に数多く出演されてきたが、ドラマスタッフによると、撮影時には驚くほど関連書籍を読み込み、役作りを行うそうだ。主演した映画「武士の家計簿」の原作者である歴史学者の磯田道史さんとは、その後も親交を続けているという。
今回、古代エジプト三千年の歴史を再発見する大型シリーズ番組を制作するにあたり、私たちは世界史にも関心が深い堺さんに出演をお願いした。その情熱が、きっと視聴者を引き付ける力になると思ったのだ。大人気ドラマ続編の撮影を間近に控えていたが、エジプト現地ロケのために1週間スケジュールを空けてくれた。とはいえ、ピラミッドだけでなく、「王家の谷」がある中部ルクソール、さらにスーダンとの国境に近いアスワンまで、ナイル川を1000キロ近くも南下していく計画のため、かなり目まぐるしい旅になる。堺さんとの弾丸ロケは、こうして幕を開けたのだった。
「エジプトのラクダは、モンゴルと比べて少し小さいね」
翌朝、ピラミッドでの撮影が始まった。せっかく堺さんがエジプトに来てくれたのだ。ディレクターとしては、その特別感をしっかり表現したい。考えたのは、三大ピラミッドをバックに背負った番組冒頭シーン。ラクダに乗って堺さんに登場してもらうことにしたのだ。台本には、こう書いた。
「みなさん、私がいまどこにいるかわかりますか? エジプトです!」
かなりベタな演出だが、くだんのドラマも脳裏に浮かび、砂漠といったらラクダに乗るしかない、と思ったわけだ。堺さんは私たちが用意したラクダを見ると、「エジプトのラクダは、モンゴルと比べて少し小さいね」と教えてくれた。慣れた様子でまたがり、ピラミッドを見つめるその姿は、実に様になっていた。
その後はピラミッドを外側から撮影したり、中に入って探索したり、ロケは1日がかりとなった。太陽がジリジリと照りつけ、水分補給が欠かせない。堺さんが撮影中、こんなことを言った。

