でも、仕事はふつうにこなせているので、バカじゃないと思うんです。だからこそ、謝るのが当然だっていうことがなぜ理解できないのか、ほんとうに不思議で仕方がなかったんです。

先輩にあたる人が、『ここは彼に謝るべきじゃないのかな。君の失態をカバーしてくれたんだから』と言っても、ムキになって言い訳ばかりして謝らないんです。そこで先輩が、『君の失態を責めてるんじゃないんだよ。失敗することはだれにでもあるから。でも、彼に余計な負担をかけたことを謝ったほうがいいと言ってるんだよ』と説明しても、ああだこうだ言い訳をして、あくまでも謝らないんです。

でも、さっきの話を聴いて、なんとなくわかった気がします。彼は、競争心がとても強いところがあるから、同僚にカバーしてもらったのが悔しいんですね」

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この人物も、ほんとうはありがたいはずなのに、優位に立たれたくないといった思いのほうが勝ってしまい、素直に謝ることができないのである。

榎本 博明(えのもと・ ひろあき)
心理学博士
1955年東京生まれ。東京大学教育学部教育心理学科卒業。東芝市場調査課勤務の後、東京都立大学大学院心理学専攻博士課程中退。カリフォルニア大学客員研究員、大阪大学大学院助教授などを経て、現在、MP人間科学研究所代表、産業能率大学兼任講師。おもな著書に『〈ほんとうの自分〉のつくり方』(講談社現代新書)、『「やりたい仕事」病』(日経プレミアシリーズ)、『「おもてなし」という残酷社会』『自己実現という罠』『教育現場は困ってる』『思考停止という病理』(以上、平凡社新書)など著書多数。
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