今いちばん好きな番組がこれです。
近ごろの旅番組は「安上がりでちょいと物珍しい」方向を目指す、いわば「志の低い」ものばかりである。
はっきりいってこの『ケンコバのほろ酔いビジホ泊全国版』もそういうやつだ。「もう豪華なやつは流行んねーんだよ、ビジホとかどうよ、ケンコバあたりに回らせてよ」なんてプロデューサーのテキトーなひと言で始まったのではないか。そう思わせる安さにあふれた番組です。
が。「テキトーに振ったバットがボールを真芯で捉えてしまいなんと場外ホームラン」だった!
内容はタイトル通り。ケンコバが地方都市のビジネスホテルに泊まり、夜の町で飲み食いする。それだけ。それだけなのに、見てるだけで「あああーーっ」といちいち声が出る。それぐらいすばらしい映像美。
いや、美は言いすぎた。でも、毎回登場するビジホ――チェーンではない、その土地土着のローカルビジホのフロント、廊下、ドアをあけて入った部屋。クリーム色なのかタバコのヤニなのかわからない壁紙とカーテン。6畳ぐらいにみっちり詰まったベッド(カバーはゴブラン織り)に机にテレビ、せまっ苦しいバストイレ、ダサい室内着。ああ、これこそ「典型的ビジホ」。たまらん。
これが西成の木賃宿ならもっと汚くて粗末で、だからこその味わいや、バラエティ的騒ぎどころもあるが、地方都市のフツーのビジホの、まったくアートにもサブカルにもなり得ない「生ぬるいしょぼさ」。それが番組からあふれ出す。
ビジホをバカにしてるのではない。私は競輪選手のおっかけで多くの地方都市に遠征しビジホに泊まりまくり、そのしょぼさに心から安らいでいるのだ。着古してくたくたの、でも一応洗濯はしてある下着を身につけた時の安らぎに似ているとでも言おうか。
そんなビジホのある地方都市の繁華街。繁華なんかではまったくない、終わりかけのアーケードや横丁。日本中の地方都市を歩き回っている私にはわかる。これこそが2025年の「日本」の風景だ。この番組は「令和の『新日本紀行』」だと言いたい。冨田勲の名曲が頭の中に流れるぞ。
ケンコバのキャスティングも見事である。今の日本の原風景にこれほど似合う男はいない。そしてここが肝心であるが、ケンコバ氏はビジホやこういう風景を、着古した下着のように捨てられない男なのだ。最高の旅人である。
ところで私の地元(徳島)のローカル局やケーブルテレビでも地元町歩き番組やってるが、こういうビジホを「豪華なホテルです!」「最高の景色です!(見えるのは田んぼと国道)」とか紹介していて哀しい。それが地方都市の現実です。
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『ケンコバのほろ酔いビジホ泊 全国版』
BS朝日 木 22:30~
https://www.bs-asahi.co.jp/business_hotel/



