これらのうち、政治家や芸能人などに忖度があるのかないのかについては、末端のテレビ局員であった私にはうかがい知れない部分なので、判断を留保せざるを得ないのですが、いわゆる「大物」と言われる人達の扱いに神経を使うことは確かです。私の経験からも、芸能人の扱いは大変だったという記憶があります。

 昔、私が企画した番組で、ある芸能人の方に地方まで来ていただいたことがありました。その方が前日の夜から現地入りするということで、駅の近くのホテルを用意し、「宿を用意しておきましたので、前日はこちらに泊まってください」とマネージャーにお伝えしておきました。有名なホテルですし、駅からタクシーで5分くらいですから、迷うはずもないところです。すると、当日マネージャーから電話があり、「今新幹線で向かっているが、このような対応をされては、本人に申し訳ない」と言われました。要するに「駅に出迎えがない」ことへの不満です。

2014年に退職するまで15年間NHKでアナウンサーとして勤務した今道琢也さん

 そこで、私は、慌てて駅まで向かうことになりました。私一人では心許ないので、先輩と一緒に行き、新幹線のホームに整列して、直立不動で到着を待ったものです。さらに、その夜は一席を設ける、というところまで手配しました。その時、先輩はわざと私を𠮟る形にして「この者が業界のことをよく分かっておらず、失礼な対応をしてすみませんでした」と頭を下げ、なんとか事なきを得ました。

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 その芸能人の方は「大物」といえるクラスではありませんでしたが、「それでも、これだけの対応をしなければいけないのだな」と思ったものです。ましてや、トップクラスの人ともなれば、どれだけ神経を使うのか想像に難くありません。

 ドラマであれ、バラエティであれ、トップクラスの芸能人は、その人が出るだけで一定の数字がとれます。従って、いかにそうした人をひっぱってこられるかが、担当者の腕の見せ所となります。

 本来、テレビ局側は出演料を払って相手方に業務を発注する立場にあるわけですが、トップクラスの人ともなれば、出演の了承を取るだけでも大変ですから、「お越しいただく」というイメージです。到着時のお出迎えから、番組終了後のお見送りまで、下にも置かない対応をしなければいけません。このような「大物」が何か問題を起こしたときに、他の人と全く同じように報じることが出来るのか、それとも一旦様子見となるようなことがないのか、という疑問が出てくるのは自然なことでしょう。本当のところは私には分かりませんが、とにかく気を遣うことは確かです。もし何らかの忖度があるのだとしたら、そういうところに要因があるのでしょう。