ネタ探しに追われる日常
そのようなわけで、私もテレビ局に在籍時は、日々ネタ探しに追われていました。
「何月何日の5分の枠を担当する」と決まれば、絶対にネタを探し出さなければなりません。もし見つからなければ、放送に穴が空いてしまいますから必死です。地元紙を隅から隅まで目を通して何か面白い話題がないか探したり、以前取材した先に電話をしたりなどして、何らかのとっかかりを探します。
そして、見込みのありそうな話があると、先方と連絡をとり、下取材をさせてもらいます。先方と話した結果、なんとか番組になりそうだ、という見込みがつくと「何月何日の番組で取り上げさせてもらうかもしれませんので、その時はご協力をお願いします」と曖昧な言い方をして局に戻ります。こういう曖昧な言い方をするのは、「もっと良いネタが見つかったらそちらに差し替える」ということが、前提として含まれているからです。
この段階では、言ってみれば「キープ」の状態です。まだ、上司のOKも出ていませんし、テレビは少しでも面白いもの、少しでも目を引く話題を求めます。より面白いネタがあれば、当然そちらに差し替えます。そのため、はじめの取材先には「取り上げさせてもらうかもしれません」という曖昧な言い方で期待を持たせつつ、もっと良いネタはないかと探し回ります。その結果、別の面白いネタが見つかることもよくある話です。
そういう場合、はじめの取材先には、
「先日の件ですが、まだタイミング的にもアレなんで、ちょっとペンディングさせてください」
などと適当なことを言ってうやむやにし、後は、新しいネタにかかりきりになります。
こうして、はじめの取材先のことは、すっかり忘れてしまいます。
その時の放送はそれで一件落着です。そして、またしばらく経ってから「何月何日の中継の枠を担当してもらいます」と、割り振りが決まります。そうなると、また一からネタ探しが始まります。
ところが、今回ばかりはどうしても見つからない、企画の提出締め切りも迫ってくる……そんなときに、以前取材して、放置したままになっていたネタの記憶がよみがえります。
「そうだ、今度こそあのネタを使おう!」
と思い立ち、先方に電話します。
そして、放置していたことなどなかったかのように、「前に取材させてもらった件ですが、ちょうど良い時期になったので、来週是非やりましょう!」などと調子の良いことを言って再び話を取り付けます。
一事が万事、自分たちの都合が最優先なのですが、それくらいのことが臆面もなくできなければ、とても回っていかない世界です。私自身も、こういうことをやって誰かに迷惑をかけていなかったかと言えば、否定はできません。
より新しいネタ、刺激的なネタを求めて日々駆けずり回るというのがテレビ局員の日常です。放送の日時は決定していますから、何が何でもそこに間に合わせなければなりません。それが行き過ぎてしまうと、取材上のトラブルや非常識な対応が発生してしまいます。
私が経験した、「そちらの動画を放送で使わせてもらいたいので、連絡をください」
と言われて連絡したら、先方に無視されたというケースも、こういうテレビ局の仕事の進め方があるからです。
前にも述べたように、「テレビはみんなが見ていて、みんなが出たがっている」時代なら、多少のことは大目に見てもらえました。あるいは、SNSがなかったために、単に表沙汰にならなかっただけかもしれません。しかし、もうそういう時代ではないのです。無理な取材、自己中心的な取材は、テレビの信頼性を一段と下げていくことになるでしょう。