特権意識

 テレビ人の特権意識に関して言えば、次のようなことも思い出されます。私がまだ社会人になりたてのころだったと思いますが、お昼のニュースが近づいている時間に、工場で火災か何かが発生しているという情報が入りました。ある先輩記者がすぐに工場に電話をして状況を確認していたのですが、工場の担当者の答えが要領を得なかったのでしょうか、突然その記者は、「あんたじゃダメだから、上司に代わってくれ」と声を荒らげたのです。ニュースの放送時間が近づいているというのに工場内の詳しい状況がわからず、焦っていたのでしょう。その気持ちは理解できます。

画像はイメージ ©GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート

 しかし、客観的に見ると、テレビ局は取材をお願いする側であり、工場の担当者は取材に協力してくれる側です。その担当者にしてみれば、忙しい中で勝手にテレビ局が電話をかけてきている、という状況であるはずです。工場内でトラブルが起きているのですから、そんな電話は放り出して、現場の対応に当たりたいところでしょう。それを「あんたじゃダメだから、上司に代わってくれ」と怒鳴られたのですから、電話に出ていた担当者にしてみれば、たまったものではありません。

 仮にその担当者の受け答えがはっきりせず、その記者がイライラさせられたのだとしても、言い方というものがあります。当時私は、その様子をまじまじと見ながら、「テレビってすごい権力なんだな」と思ったものです。

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 また、私が会社を退職した後のことですが、こんなこともありました。私は趣味で撮った映像を動画共有サイトにいくつか上げているのですが、あるとき、民放キー局のディレクターから、「そちらの動画を放送で使わせてもらいたいので、連絡をください」、というメールが来ました。私もテレビ局にいたことがありますから、番組制作の大変さは分かります。そこで「協力いたします。どのような形でお送りしましょうか」と、返信しました。しかし、その後相手からは何の返答もありませんでした。私の想像ですが、おそらく他にもっと良い動画を提供してくれる人が見つかったか、あるいは、企画そのものがなくなったかのどちらかなのでしょう。そういうことは、テレビ業界ではよくある話です。

 当時私は、そのディレクターからの連絡がなかったことについて、「どうせ、テレビ局の人は適当な人が多いから」と思い、気にもとめていませんでした。しかし、今改めて考えてみると、これはとても失礼な話です。自分達の方から突然、「連絡をください」と言っておきながら、こちらがわざわざ手間を取って連絡をしてみると、無視を決め込むのですから。

 もしかすると私の動画を借りる必要がなくなったのかもしれませんが、それならそれで、「先ほどの動画の件ですが、お借りしなくて済むようになりました」と返信するのが、社会常識というものでしょう。そんなメールを返信するのに1分とかからないはずです。そういうことさえしないのですから、テレビ局員はどこか傲慢で特権意識がある、といわれても仕方がありません。もちろん、私自身もその一員だったのであり、気づかないところで、取材先に不快な思いをさせた可能性はあります。これは、自戒を込めての話です。