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麻原彰晃死刑執行 「極秘テープ」に残されたオウム真理教の真実【後編】

麻原彰晃死刑執行 「極秘テープ」に残されたオウム真理教の真実【後編】

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「お前は心が弱いからダメなんだ」と麻原が叱責

 一方、高橋容疑者は地下鉄サリン事件やVXガス殺人事件などオウムが終盤に起こした多くの事件に関わった疑いがもたれている。しかし、これまで高橋の素顔はほとんど知られていなかった。

 NHKスペシャルの「実録ドラマ」に登場した元幹部は、高橋と交流があった数少ない一人だ。

「94年の3月に、教団に毒ガスをまかれてるという麻原さんの説法があって、その時に肉体的なエネルギーを高めましょう、ということで、柔道とか空手の修行をしたことがあるんです。その時に指導者になったのが、柔道二段の高橋君でした。何かのきっかけで高橋君が空手の達人だが柔道は素人だった信者と対戦することになって、それが引き分けみたいな形になって。その後麻原さんから呼ばれて、『お前は心が弱いからダメなんだ』と叱責されていたのを覚えています」

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 高橋は、教団から与えられた仕事や修行を一所懸命やるタイプだが、その一方でどこかで手を抜いてしまうところがあったという。言われたことを前向きにやろうと挑戦するが、「本当につらいことは最後までやらないで逃げるような一面があった」というのだ。

 高橋は、古参信者ではあったが、そうした性格だったためか、教団内で出世することはなかった。車両班で車の運転の担当やSPS(尊師パーソナルスタッフ)の特別警備という役職についていたこともある。教団の全ての殺人事件に関わった新実智光(死刑確定)や井上らの運転手となって非合法活動に加わるようになり、ロシアへの射撃ツアーにも参加したとされる。

 

「SPSから『諜報省』に配置されたことで方向性が決まったと思います。彼が変わったというよりも、教団が変わっていって、諜報省のメンバーが違法行為を行うようになってたんで、そういう中で自然に事件に関与していくようになったと思います。VXガスの殺人事件とかですね。高橋君は古いサマナ(信者)なので非常にまじめですから、これはグルの意思だと強く言えばコントロールしやすいし、重宝されてたんじゃないかなと思います」(同前)

 地下鉄サリン事件後、警察の強制捜査が行われた後は、上司であった井上と行動を共にし、東京都内や埼玉県内の潜伏先を転々とした。井上は5月15日に逮捕されるが、高橋は07年頃まで偽名を使って逃亡生活を続けた。最終的に、都内の漫画喫茶で身柄を確保されたのだった。

いのちを奪うことを正当化

 これまでの歴史でも、多くの国家や宗教が「聖戦」の名のもとに戦争や殺戮を正当化してきた。井上も、700ページを超える手記の中で、事件をこう総括している。

〈オウム事件も規模は小さくても神の名において、善として他者のいのちを奪うことが正当化された点においては同じはずです。悲劇を繰り返さないためには、命の尊厳を否定できるような絶対的に正しい大義などない、この世は矛盾に満ち、人間は誤ちを犯す生き物だからとの謙虚さが必要ではないかと、痛感しています〉

 そして、こう謝罪の言葉を綴った。

〈自分達が救済と妄信して、多くの方々のかけがえのない命を奪い、苦しめ、今も苦しめてしまっています。ただただ申し訳ない思いで胸がはりさけそうになります。二度とこのような事件が起きないようにできる限り努めていきます〉

 平田信や高橋克也らの逮捕によって、再びオウム裁判が始まる。果たして、これまで以上の真実が明らかにされるのか。事件から17年たった今なお新たな事実が出てくることを踏まえれば、裁判の場でもう一度事件を徹底解明することが必要だと言えよう。そして、事件を風化させないためにも、また事件から未来へつながる教訓を得るためにも、「未解決事件」の取材班はその行方を注視し取材を続けていくつもりである。

注・2、3ページ目の逮捕された元女性信者に関する記述について、執筆時、まだ裁判前でしたので、裁判の結果を受けたものに訂正致します。(7/15 22:00)

取材班による最新の特集番組が以下で放送されます。
NHKスペシャル「オウム 獄中の告白 ~死刑囚たちが明かした真相~」
2018年7月8日(日) 21:00~21:49

(初出:「文藝春秋」2012年8月号)

麻原彰晃死刑執行 「極秘テープ」に残されたオウム真理教の真実【後編】

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