「帰りのタクシーのなかで嗚咽しながら号泣した」北朝鮮代表スタッフと再会して交わした言葉とは

――賛否両論だったんですね。

鄭大世 それに、北朝鮮代表を引退した経緯にも、ずっと心残りがあって……。代表に関係した全ての人に申し訳なかったし、罪悪感に押し潰されながら日々を過ごしてました。毎晩自責の念が襲い、寝る前にいつも自分の頭を殴ってるくらいだったんです。

 謝りたいと思いながらも異国の関係者に謝るすべもなく、在日のサッカー関係者にも顔向けできず、犯罪者のような気持ちで日々暮らしてました。

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 でも、去年のW杯予選で北朝鮮代表が日本に来たじゃないですか。その時、日テレのおかげで解説を担当することになって、国立競技場での前日練習をピッチ脇で見ることができたんです。

 練習後、北朝鮮代表は基本プレスゾーンを素通りするんですが、チームの団長が僕を見つけて、笑顔で挨拶してくれました。その人は、僕が代表の時もチームの団長だったんです。

――何か言葉を交わしたのですか。

鄭大世 「元気か」と声をかけてもらいました。その時、団長の優しさを感じました。僕はみんなを裏切ったし、誰にも何も言わずに北朝鮮代表をやめたことは代表スタッフにも伝わっているはず。

 だから団長にも「どの面下げてここにきているんだよ」って思われているだろうなと。でも、どんな怒声を浴びようが挨拶だけでもしなければという思いと、謝りたいという気持ちで、彼に声をかけたんです。

 そしたら意外にも、温かく迎え入れてくれて。安堵で泣き崩れそうになるのを我慢しながら握手を交わしました。でも、帰りのタクシーのなかでは嗚咽しながら号泣しましたね。

北朝鮮代表時代の鄭大世さん ©文藝春秋

サッカーを引退したからこそ気づいた北朝鮮代表の尊さ

――試合は日本代表が1ー0で勝ちましたが、北朝鮮代表選手たちの気迫が話題になりましたよね。

鄭大世 外から見た北朝鮮代表選手たちが、めちゃくちゃかっこよかったです。ユニフォーム姿はかっこいいし、動きはキレキレだし、選手たちの誇りがオーラとして舞い上がってるようでした。

 日本代表や韓国代表と比べて恥ずかしいと思って愚痴って、イライラして問題ばかり起こしていた自分が、心の底から情けなく思えてきました。

 それと同時に、北朝鮮代表を引退したことを猛烈に後悔しました。引退してサッカー選手ではなくなったからこそ気づく代表の尊さを突きつけられましたね。

撮影=山元茂樹/文藝春秋

次の記事に続く 「ある人にダマされて、数千万円を使い込まれたことも…」“借金3億8000万円”で話題の元北朝鮮代表・鄭大世(41)が明かす、現役引退後の“お財布事情”

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