2010年の南アフリカW杯に北朝鮮代表として出場し、Jリーグでも大活躍した元サッカー選手の鄭大世(チョン・テセ)さん(41)。韓国籍の父親と朝鮮籍の母親を持つ在日コリアン3世として生まれ、韓国籍を所有していたが、北朝鮮代表としてプレーすることを選んだ。
そんな鄭大世さんに、北朝鮮代表を選んだ理由、日本と北朝鮮のプレー環境の違い、南アフリカW杯の裏話などを聞いた。(全3回の2回目/3回目に続く)
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「芝の管理も行き届いてないから、パスサッカーは難しい」日本と北朝鮮代表と環境の違い
――テセさんは韓国籍でありながら、なぜ北朝鮮代表を選んだのですか。
鄭大世さん(以下、鄭大世) 日本で朝鮮大学まで行ったので、北朝鮮代表以外の選択肢はあり得なかったです。
――北朝鮮代表の環境は、日本とはかなり異なるのですか。
鄭大世 全然違いますね。「Jヴィレッジ」みたいなところはあるけど、芝の管理も行き届いてないから、パスサッカーは難しい状態でした。
試合のときは、日本ではクラブチームでもロッカールームにあらゆるものが完璧に置いてあるけど、北朝鮮代表のときは何もない。
ユニフォームも普通試合と練習用に分けて用意されるけど、4枚のユニフォームを手渡されて使いまわすので、生地が色落ちするし、洗濯も手洗いしないといけない時が多かったです。
――環境や対応にクレームは出ないのですか。
鄭大世 それが当たり前で、他の環境を知らないので文句とか出ないですね。
でも、僕は別の環境を知っているわけじゃないですか。だから正直、最初は環境を理由に北朝鮮代表チームを見下していました。試合を重ねるごとに、彼らの底知れぬ潜在能力を感じて尊敬に変わっていきましたが。
「奇跡のミルフィーユ」だった2010年南アフリカW杯出場
――逆に、日本の選手にはなく、北朝鮮の選手が持っているものはありましたか。
鄭大世 メンタリティーが凄いですね。とにかく根性が半端ない。目を血走らせて死に物狂いでプレーするんです。
特に、この試合に勝たないといけない、という時はすごくて、ここまでメンタルが人間を突き動かすのかと感動しました。劣勢時にゴールに突っ込んでいく姿勢とか、守備での体の張り方は想像を絶します。不器用だけど死に物狂い。本物のハングリーです。
――2010年南アフリカW杯は、北朝鮮代表にとって44年ぶりのW杯出場でした。
鄭大世 奇跡の連続だったので、「奇跡のミルフィーユ」と言ってます(笑)。
資本主義で、科学の発展の恩恵を受けるチームが多い中、そうではない社会主義の北朝鮮代表がW杯に出たことは、夢のまた夢でした。
初戦のブラジル戦では、国歌斉唱の際に思わず泣いてしまいましたね。この相手にこの緊張感の中で戦えるのか、という喜びに満ち溢れてました。

