2010年の南アフリカW杯に北朝鮮代表として出場し、Jリーグでも大活躍した元サッカー選手の鄭大世(チョン・テセ)さん(41)。韓国籍の父親と朝鮮籍の母親を持つ在日コリアン3世として生まれ、2013年に韓国人女性と結婚。現在は2児の父として、仕事と子育てに奮闘している。
そんな鄭大世さんに、結婚を決めるまでの背景や現在の生活、子育てなどについて話を聞いた。(全3回の1回目/2回目に続く)
◆◆◆
「一番出会ってはいけない僕と付き合うことに…」大韓航空のエリートCAだった妻と交際6か月で結婚した経緯
――テセさんのパートナーであるミョン・ソヒョンさんは、大韓航空の元CAだそうですね。
鄭大世さん(以下、鄭大世) 大韓航空のCAの中でも、13名しかいない大統領機に乗る超エリートだったんです。サッカーで言えばメッシ、クリスティアーノ・ロナウドクラスですよね。
でも、よりによって元北朝鮮代表という一番出会ってはいけない僕と付き合うことになり……。
――なぜ、出会ってはいけない存在だったのですか。
鄭大世 大統領機に乗るということもあって、家柄から素行まで厳しくチェックされるんです。ある時、彼女が隠してたのに「鄭大世と付き合っているのか? 政府との契約が打ち切られたらどう責任取るんだ」と上司に言われてしまって。
僕は日本生まれだし政治的になんの力もないのに、それが原因で彼女に振られたんです。でもそんな別れは悲しすぎるので、いっそ結婚しようと伝えたら、付き合って3か月で婚約を決意してくれて、6か月で式をあげました。
結婚後、彼女は当然大統領機に乗れなくなり、一般の飛行機勤務になったのですが、すぐに妊娠したのでそのまま辞めたんですよね。
――パートナーはすごい決断をしましたね。
鄭大世 ほんとですよ。僕が世界のトップクラブにいるときに、サッカー選手をやめるみたいな選択じゃないですか。奥さんはそれほどの決断をしてくれたので、頭が上がりません。
「長男の誕生を機に、完全にスランプから抜け出した」子どもの誕生が与えた影響
◆
2013年に結婚した鄭大世さんとミョン・ソヒョンさん。夫婦の間には、2014年に第1子の長男が生まれ、2016年には第2子となる長女が誕生した。子どもが生まれてからの鄭大世さんは、視界が少し開けて、違う世界が見えるようになったという。
◆
――子どもの誕生は、テセさんにどんな影響を与えましたか。
鄭大世 世界が色鮮やかに映るようになりました。みんな愛してくれる親や子がいて、愛に包まれて生きているんだなと。それまでの自分の行いが稚拙に感じました。
長男の誕生を機に、プレーも変えました。スランプを抜け出すキッカケを探してた時期でもありましたし、誇れる父になるためにエゴを捨て、献身性に方向転換したんです。
そしたら、自分が無理をしなくてもチームが勝つようになって。以前とは違ってアシストが格段に増え、違う形でのゴールも取れるようになり、出場時間も増え、得点数も増えました。完全にスランプから抜け出し、再び自信を掴み取れましたね。
――子どもの誕生が、サッカーにも良い影響を与えたんですね。
鄭大世 清水エスパルスに移籍してからも献身的にプレーしましたが、大前元紀の怪我を機に自分が点を取らなければいけない立場になり、パスもして強引なシュートも決めて、2桁アシストと得点王を達成できたんです。長男のおかげで、セカンドブレイクができました。

