「在日としての誇り」「民族を誇らなければならない」というプレッシャーから解放されたドイツでの選手生活
――テセさんは約3年間ドイツでプレーしています。
鄭大世 僕自身がドイツでどん底にいる時、民族意識を考える余裕がなく、状況を変える覚悟と行動だけが大きな力となったんですよね。それにドイツでは、“在日”という存在からかけ離れて、民族が混在した世界で生きるのに必死でした。
そういう環境で日々を過ごし、在日コリアンではない韓国育ちで韓国人の妻に助けられたこともあって、民族で分類する意義を感じなくなりました。自分の周りにいる人が一番大切だと考えるようになったんです。
そうしたら自分が、「在日としての誇り」とか「民族を誇らなければならない」というプレッシャーから解放された気がして、すごく楽でした。自分の中の価値観をぶち壊す、稀有な経験だったと思ってます。
ただ、今でも在日の映画とかを見るとグっとくるし、アイデンティティの重要性と、戦った先人への感謝が湧き上がってきますけどね。
「争うためのものではなく、誇るためのもの」子どもができてから変化した民族意識
――テセさん自身も変わったんですね。
鄭大世 子どもができてから、自分の中での「民族」という概念は変わってきていますね。
最近、息子が韓国のインターで「Your dad is Northkorean」って馬鹿にされたらしく、へこんで帰ってきたんです。そういう時に、子どもに「そいつらのことを一生許すなよ」という教育は絶対にしたくない。
だから、「他民族、他国籍を非難する人は普通じゃないと思う」「そういう人は、違う価値観を受け入れる心の余裕がない、って言ってるようなものなんだよ」と伝えました。
国家間の問題はいろいろありますが、“その国の政府とそこにいる国民は全くの別物”ということに気づいて欲しいです。
国家間の問題はあくまで政府同士の問題であって、国民同士が互いを罵り合うのは“狙う的”を間違えてるように思います。自分の経験から、民族意識は争うためのものではなく、誇るためのものだと思っています。
――テセさんらしい言葉です。
鄭大世 子どもには「いい思い出だけを未来に持っていき、嫌なことは過去に置いていこう。旅行でカバンに必要のないものは入れないでしょ? それと一緒だよ」と寝る前にいつも言ってます。
その日起きた良い出来事を語りあって眠りにつく習慣を作ることで、ポジティブな思考回路を睡眠時に根付かせる狙いです。
子ども達には先祖への感謝の気持ちを持ちながら、新しい世界を創造して欲しいと願ってます。
