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地上から発射したミサイルで衛星を破壊する実験

 このように何をするか明確ではない「宇宙軍」をなぜトランプ大統領は創設しようとしているのだろうか。その背景には、まず2007年に中国が行った衛星破壊(ASAT)実験がある。これは中国が老朽化した自国の人工衛星を地上から発射したミサイルで破壊した実験で、中国は有事の際に仮想敵国であるアメリカの軍事的能力を低下させるために、GPS衛星や偵察衛星などを撃墜する能力を持っている、ということを見せつけた。

 軍事衛星の軌道は公開されていないとはいえ、宇宙空間を精密に観察していれば、その軌道を予測することは可能であり、衛星の動きを捉えることができればミサイルで撃墜することができる。中国は2010年、2013年にもこうしたASAT実験を行ったとみられており、その能力を確立したと推測される。こうした衛星に対する攻撃から、アメリカの軍事能力の中核を担う宇宙インフラをいかに守るかという点が大きな課題となっている。

カリフォルニア州のヴァンデンバーグ空軍基地から打ち上げられるアトラスVロケット ©U.S. Air Force

 第二に、中国やロシアが開発しているマッハ5を越える超音速ミサイルの存在である。これは弾道ミサイルとは異なり、一度宇宙空間に向けて発射された後に超音速で滑空するため、通常のミサイル防衛システムでは迎撃できないと考えられている。ゆえに宇宙空間でこれらのミサイルを迎撃するのが最適な防衛であり、そのために宇宙空間での迎撃システムの構築が問題となっている。

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宇宙空間をめぐる影響力は重要論点に

 第三に、中国は月面探査のプロジェクトを進めており、近く月の裏側に探査機を着陸させると見られている。月の裏側は常に地球とは逆の向きにあるため、地上との通信のためには、通信を中継する衛星が必要だが、中国はこれをすでに打ち上げている。トランプ政権も有人月探査を目指しており、将来的には月面における支配権(宇宙条約により月面を領有することは認められていない)をめぐる競争が起きる可能性があると考えられている。

月面でも支配権争いが起きる? ©iStock.com

 また、軍事活動における宇宙インフラの重要性が高まる中、宇宙関連の部門が空軍に集中しているのは適切ではない、という議論もある。宇宙技術は空軍が主体とする航空機やミサイルの技術とは異なるものであり、人工衛星の技術開発や運用に関しては、独自の訓練と組織が必要という指摘もなされている。

 こうした、宇宙空間をめぐる影響力(中国では「制宙権」、アメリカでは「Space Dominance:宇宙支配」や「Space Supremacy:宇宙優位性」と呼ばれている)が急に重要論点として浮上していることが「宇宙軍」創設の背景にある。