まさに絶景! 50年以上も燃え続ける「地獄の門」
直径70m以上あり、まるで地上に落ちた巨大なルビーのように見える。「地獄」がこんなにも美しいなんて。はやる胸を押さえつつ車を降りて穴に近づくと、下から顔に熱風が吹きかかる。熱い。そしてガス臭い。
手で口を覆い息を止めながら恐る恐る穴を覗き込んだ。大きなひと塊の炎に見えたが、実際は穴のあちこちから大小いくつもの炎がチョロチョロと噴き出しては揺れている。
Sさんによると、1971年に地質学者が掘削調査をしていたところ洞窟を発見し、採掘しようとしたら落盤。巨大な穴が開いた。その際、作業員ひとりが落ちてしまったが命からがら引き上げられ、有毒ガスが出て危ないので火をつけて燃やしたのだとか。
それから半世紀。いつの間にか観光客が増えて名所となったらしい。炎の勢いは年々、衰えていると言われているが、「炎の量は昔と変わりませんよ。減ったのはサソリです。皆が踏むから」とSさんがニヤッとしたので思わず靴の裏を見た。
赤い夕暮れからとび色の空に、そして一番星が光り完全に真っ暗になると、赤い炎の勢いが増し本当の地獄のようにゴーゴーと音を立てて燃え上がる。まるで映画『ロード・オブ・ザ・リング』の「滅びの山の火口」のシーンのようだ。1/fのゆらぎを持つ焚火を見ているとリラックスするというけれど、むしろドキドキして落ち着かない。
穴のあちこちからモグラのように炎が顔を出しては消え、別の穴からまた炎が噴き出す。カラカラの死の砂漠の薄皮をめくれば、ドクドクと力強く血管が脈打っているような生々しいエネルギーを肌で感じる。
不思議と火を操る悪魔の気分になって「フヒヒ」とつい笑いが漏れると、そばにいた西洋人グループに伝染したのか彼らも「ヒヒヒヒ」「フハハハ」と体を揺らして不気味に笑い出した。おお、地獄っぽい。


