「中央アジアの北朝鮮」という異名を持つ国をご存じだろうか。その国の名は、トルクメニスタン。日本の約1.3倍ほどの面積を誇る国土に、約660万人が暮らしている国だ。
なかなか日本ではなじみのない国だが、果たしてどんな景色が広がっているのか。世界各国を旅するライター・フォトグラファーの白石あづさ氏による新著『中央アジア紀行 ぐるり5か国60日』(辰巳出版)から一部抜粋し、お届けする。(全3回の1回目/続きを読む)
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3代にわたり独裁政権が続く国
鉄条網の向こうにある丘が白くかすんで見える。まるで白昼夢の中にいるようだ。砂漠のど真ん中にあるウズベキスタンとトルクメニスタンの国境線の上で、皮膚がじりじりと焦げるような強烈な日差しに私は思わず日傘を取り出した。
砂埃が舞っているだけで国境の緩衝地帯には木陰もベンチもない。まだ朝の9時だというのに汗をダラダラとかきながら30分ほど立っていると、地平線の向こうからトルクメニスタン側のイミグレへと向かうオンボロな“国境バス”がガタゴトと老体を揺らしながらやってきた。
トルクメニスタンと聞いてどんな国か頭に思い浮かぶ人はあまりいないだろう。1991年にロシアから独立した後、3代にわたり独裁政権が続いている「中央アジアの北朝鮮」との異名を持つ謎の国である。
最初の大統領、サパルムラト・ニヤゾフさんは2006年に亡くなるまでその座に座り、副首相だったグルバングル・ベルディムハメドフさんが2代目として16年間、そして2022年にはグルバングル大統領の長男、セルダル・ベルディムハメドフさんが3代目に就任した。
それを聞いただけでも独裁国家の匂いがそこはかとなく漂ってくる。私が初めて訪れた1999年は、初代ニヤゾフさんの時代であった。トルクメニスタンと聞いて私がすぐに頭に浮かぶのは「眉毛」である。

