「中央アジアの北朝鮮」という異名を持つ国をご存じだろうか。その国の名は、トルクメニスタン。日本の約1.3倍ほどの面積を誇る国土に、約660万人が暮らしている国だ。
トルクメニスタンが誇る名所の一つが、50年以上も燃え続ける巨大な穴、「地獄の門」。一体どんな景色が広がっているのか。世界各国を旅するライター・フォトグラファーの白石あづさ氏による新著『中央アジア紀行 ぐるり5か国60日』(辰巳出版)から一部抜粋し、お届けする。(全3回の2回目/続きを読む)
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2時間ほどでクフナ・ウルゲンチに到着した。最盛期のホレズム王国(1077~1231年)時代を含め10世紀から約500年間、都市は栄えたが、モンゴル軍に破壊されたり、川の流れが変わったりして街が荒廃し、今は誰も住んでない。
世界遺産に登録されたものの土産物屋もなく観光客もまばらだ。建設当初は中央アジア一の67mもの高さを誇った11世紀建造のクトルグ・ティムール・ミナレットは見ごたえがあるが、点在するモスクはだいぶ崩れている。
その中でも保存状態が良さそうな14世紀のトレベクハニム廟に入ってみると、ひんやりした空気が頬をなでる。奥の青タイルのドームを覗けば鳥が羽ばたく音と人のささやき声が聞こえてきた。
近くの村から来たのか民族衣装のマダムたちが冷たい床に横になり、おしゃべりに花を咲かせている。砂漠にとり残された世界遺産はそれなりに今も役立っているようだ。こうして2度目のトルクメニスタンの旅は穏やかに始まった。
“中央アジアの北朝鮮”にある「地獄の門」へ
地獄の門へと向かう「国道」は「酷道」と書いたほうがぴったりくる。とにかく穴が多いのだ。進むほど大きな穴になり、場所によっては穴の面積のほうが多い道もある。この国は世界有数の天然ガス資源国で、世界第4位の埋蔵量を誇る。たくさん外貨が入るのだからそのお金で直せるだろうに。
「北部の土は塩分が多くて道路が傷みやすいんです。まあ、そんなに人も住んでいないので」とSさんは笑う。聞けば日本の国土の1.3倍の広さがありながら、国の人口は660万人程度(実際は約300万人とも)とか。
ダルヴァザという小さな村までたどり着くと、舗装道路をはずれカラクム砂漠の道なき道へと突っ込んでいく。砂ぼこりを立てながら絶え間なくジャンプする車が急に止まったかと思ったら、唐突に“ソレ”は姿を現した。通称「地獄の門」と呼ばれる砂漠の燃える穴だ。

