警察官が、普通に賄賂を要求してくる
ホテルやキオスク、役所や駅など至るところに太眉のニヤゾフさんの肖像画がかけられていて常に見られている気がしてならなかった。
眉の濃い中央アジアの人々の中でもトルクメニスタン人の眉はフサフサを通りこしてモコモコで、『こち亀』の主人公の警察官、両津勘吉の顔をあんなに何度も思い出した国も他にない。ただし両さんと違い、こちらの太眉警察官は私のような外国人に適当な言いがかりをつけて「見逃してやるから金をくれ!」と賄賂を要求するのだ。
出国時なんてイミグレの職員が白衣を羽織り「アイム・ドクター! イエローカード(黄熱予防接種国際証明書)を出せ」とニマニマする。黄熱病は関係のない国だが、たまたま持っていたので見せると「何で持っているんだあ!」と偽医者はうなだれた。大がかりなコントのようで憎めない人々ではあったが、最後まで気が抜けない国であった。
しかしあれから四半世紀も経っているし、今回の旅はかつての72時間以内のトランジット(通過)ビザではなく、車と現地ガイド付きの観光ビザでの入国である。
現地の人が同行するから前回よりはマシだろうと思いつつも、悪の牙城にしか見えないイミグレの建物に私は浮かない顔で入城した。
ところが予想に反して「ウエルカム!」と職員がにこやかに声をかけてくれ入国スタンプをポン。わずか2分。本当にそれだけ? 長い歳月を経て職員は大人になったのか? それとも賄賂がいらないほど国が豊かになったのか?
拍子抜けしながら入国すると、外で柔和で小柄なガイド兼日本語通訳のSさんと、体の大きなドライバーさんが「3年ぶりの日本のお客さんです」と微笑んで迎えてくれた。つい彼らの太眉に目がいってしまうが、「人を眉毛で判断しちゃダメだ」と私は自分を戒めた。


