「車に乗っただけで合意? そんなわけないでしょう!」

それでも結局、合意のもとにおこなわれたと認定されてしまった。男性は死刑を免れ、鞭打ち100回の刑がくだった。被害者女性は鞭打ち刑にはならずに済んだ……。

「なるべく死刑にはしたくないと考える裁判官が多いです。被害者も多くの場合は、『次の被害者を出さないために裁判を起こす。相手の命を奪いたいわけじゃない。鞭で打たれて反省してくれればそれでいい』という考えです。だから合意があったことにして、加害者だけ鞭打ち刑にする判決が落とし所になるわけです」

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被害者まで鞭打ちの刑になる場合も

シーマーさんの解説は淀みない。ちなみにレイプ未遂と判定された場合は「鞭打ち1〜99回の刑」で、裁判官が1から99のなかで回数を決めて言い渡すらしい。

「日本人から見たら、ふしぎな国でしょうね。異性とハグしただけで99回の鞭打ちだなんて」
「握手しただけで99回ですよ」

シーマーさんと通訳のメフディーさんは、そんな雑談をしていた。いやほんと、驚くことばかりです。

死刑制度には反対だが…、女性を守りたい

わたしは気になっていたことを思い切って尋ねた。

「シーマーさんは、死刑制度についてどう思いますか?」
「死刑制度には絶対反対。だからレイプ被害者の弁護人になるのに葛藤がありました」

シーマーさんはたばこを灰皿に押し付けると、こちらに向き直って丁寧に説明してくれた。レイプ事件を扱えば死刑判決を求めることになる。でも引き受けなければ被害女性を守れない。長い目で見てどちらがいい社会になるだろうと考えたシーマーさんは、結局レイプ案件を引き受けることにしたのだという。

世界的に死刑廃止が進むなか、イランも日本も死刑を存続させている、今や少数派の国だ。国際人権団体アムネスティ・インターナショナルによると2021年時点で死刑を廃止している国は108カ国(10年以上執行がない事実上の廃止国を加えると144カ国)、死刑が執行され続けているのは日本、中国、北朝鮮、イランなど55カ国。