イランでも死刑廃止を求める声は高まっているらしい。

「日本はどうですか?」
「日本でも廃止の議論は続いているけど、残念ながら死刑制度を支持する人もたくさんいます」

わたしはそう説明した。

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「日本ではときどき『死刑になりたい』と言って殺人事件を起こす人がいるんですよ。死刑制度が犯罪の抑止力になるっていう意見もあるけど、むしろ死刑があるせいで起きてしまう大量殺人や無差別殺人もあって……」
「死刑になりたいから人を殺すなんて! 日本は自殺が多いと聞いていたけど、そんな話は初めて聞いたわ」

今度は逆にシーマーさんが驚いていた。

わたしはさらに遠慮なく聞いた。

「シーマーさんが弁護した人で死刑になった人はいますか?」

答えは「ふたりいる」だった。ひとりは殺人を犯した女性、ひとりは政治犯の男性だという。

政治犯も宗教弾圧の被害者も弁護する

政治や信仰のために迫害される人に寄り添うのもまた、シーマーさんの仕事の大きな軸だ。

たとえばバハーイー教徒の弁護も引き受ける。バハーイー教は19世紀のイランで生まれた新宗教。イスラム教スンニ派からもシーア派からも異端とされている。イランではバハーイー教を信仰しているだけで土地を没収されたり警察に逮捕されたり、不当な扱いを受けるのだという。

そういえば日本からイランに小包を送ろうとしたとき、郵便局の窓口で「イランに送ってはいけない物リスト」を渡された。火薬、毒物、酒類、ドローン機材などに混じって「アブドゥル・バハーの肖像の描かれている物品」という項目があって、なんだそりゃと思ったら、バハーイー教の昔の指導者の名だった。日本の郵便局に通達を出すほど、イラン政府はピンポイントでバハーイー教を忌(い)み嫌(きら)っているのだ。その信者の弁護をシーマーさんは引き受ける。政府にビビっている人がやる仕事ではない。

「わたしの仕事がどういうものか、きっと時系列を言えばわかるでしょう」

シーマーさんはおだやかな口調でそう言った。