「まず2009年がすごく忙しかった。そのあとは2022年の秋。週に5日はだれかの弁護をしていたわ」

あぁ、やはりそうなのか。わたしはもう驚かない。

保守強硬派の政権下で起こったこと

2009年の大統領選挙で保守強硬派のアフマディーネジャードが再選された。それは不正のにおいがプンプンする怪しい選挙で、イラン全土で大規模な抗議デモが起こった。

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しかし治安部隊が武力で制圧、多数の死者と1000人以上の逮捕者が出たと伝えられている。シーマーさんはその弁護に奔走したのだろう。

「そして2022年は反スカーフデモですね」

そうわたしが言うと、闘う弁護士はほほえんだ。
「わたしたちは反スカーフデモとは呼ばないの。『女性(ザン)、命(ザンデギー)、自由(アーザーディー)』の運動って呼んでいるのよ」

もともと女性の権利が奪われていることに疑問を抱いて弁護士を志したシーマーさんだ。スカーフをきっかけに多くの女性たちが立ち上がった抗議運動をサポートするのは当然だろう。

イランの女性たちは「演技しないで生きたい」

「この国で女性たちが不自由なのは服装だけじゃない。書くこと、話すこと、考えること、すべてに自由がないの。1979年に革命が起きてからずっと、イランの女性たちは自分を偽るよう強いられてきた。家のなかでは男性の友だちと握手もするしハグもする。でも外に出たらそういうことは一切しない。まるで二重人格ですよ。わたしたちは演技しないで生きたいだけなの、ほかの国の女性たちみたいに」

ひとことひとことが刺さった。

政治犯の弁護を引き受けると、秘密警察から電話がかかってくるらしい。

「べつに怖くないです。こういう仕事をしていると『やめろ』とか『殺すぞ』なんて電話はしょっちゅうあるからね」

なんという度胸だろう。

「わたし自身も秘密警察から訴えられているけど、今のところは『逃亡の恐れなし』で塀の外にいる。まあでも、いつかそういう日が来るかもって覚悟はしてるの」