6/6ページ目
この記事を1ページ目から読む
さばさばと言った。そういう日、とは収監される日のことだ。わたしは気圧されながら、それでも問わずにはいられなかった。
不自由な国で「自由を求める旗」を引き継ぐ
「あなたの覚悟の……根っこにあるものはなんですか?」
「この闘いは40年以上前からずっと続いているんです。たくさんの人がこの国を変えようと命がけで闘ってきた。自由を求める旗は先輩から後輩に引き継がれて、一歩ずつ、ここまで運ばれてきたんです。途中で命を落とした人、大事なものを奪われた人もいる。その旗をわたしも繋いでいかなければ、と思っています」
あぁ、そういうことか。ペンを止めて顔をあげると、シーマーさんは笑顔でこちらを見ている。なにかリアクションしなければ。わたしは深呼吸して、ことばを探した。
「つまりシーマーさんは、上の世代から受け取った旗を、繋いでいく使命感で……」
もうダメだった。声が震えるのを隠しきれない。
「泣きそう」
とつぶやいたら、それをメフディーさんがそのまま訳して伝えた。シーマーさんは「わかってる」というように首を軽く傾けて、うなずく仕草をした。
権力に楯突くなんて、それも市民を虫ケラのように殺す国で、どう考えても正気じゃない。でもその正気じゃないことを続けてきた人がいる。民主的な、自由な、息ができる国はその先にしか存在しないからだ。シーマーさんは自分のことを、長いリレーの一走者だと自覚していた。
金井 真紀(かない・まき)
文筆家・イラストレーター
1974年、千葉県生まれ。テレビ番組の構成作家、酒場のママ見習いなどを経て、2015年より現職。著書に『はたらく動物と』(ころから)、『パリのすてきなおじさん』(柏書房)、『マル農のひと』(左右社)、『世界のおすもうさん』(和田靜香との共著、岩波書店)、『戦争とバスタオル』(安田浩一との共著、亜紀書房)、『世界はフムフムで満ちている』(ちくま文庫)、『聞き書き世界のサッカー民 スタジアムに転がる愛と差別と移民のはなし』(カンゼン)など。
文筆家・イラストレーター
1974年、千葉県生まれ。テレビ番組の構成作家、酒場のママ見習いなどを経て、2015年より現職。著書に『はたらく動物と』(ころから)、『パリのすてきなおじさん』(柏書房)、『マル農のひと』(左右社)、『世界のおすもうさん』(和田靜香との共著、岩波書店)、『戦争とバスタオル』(安田浩一との共著、亜紀書房)、『世界はフムフムで満ちている』(ちくま文庫)、『聞き書き世界のサッカー民 スタジアムに転がる愛と差別と移民のはなし』(カンゼン)など。
