教皇フランシスコの書簡――ヴァンスの発言への反論
上掲の雑誌タイトルにあった「教皇フランシスコの手紙」とは何かと言えば、2025年2月10日付で教皇フランシスコがアメリカの司教団に対して移民問題の件で送った書簡のことである。この書簡の中において、教皇は、「キリスト教の愛は、少しずつ他の人々やグループへと広がる同心円的な関心の拡大ではない」と述べた。この書簡においてはヴァンスの名前は明示されてはいないものの、この発言は、多くの論者によって、ヴァンスの発言に対する直接的な応答と解釈された。
まさに、上に紹介したヴァンス見解においては、「家族」から「隣人」へ、「隣人」から「コミュニティ」へ、「コミュニティ」から「自らの国の同胞」へ、そして、「自らの国の同胞」から「世界の残りの部分」へと自らを中心として同心円的な仕方で広がっていくような仕方で、他者への関心の拡大が語られていたのである。それに対して、教皇フランシスコは、次のように反論している。
人間は尊厳を持つ主体であり、すべての人々、とりわけ最も貧しい人々との構成的な関係を通じて、徐々に自らのアイデンティティと召命において成熟していくことができるのです。促進されなければならない真の「愛の秩序(ordo amoris)」は、「善きサマリア人」のたとえ話(「ルカによる福音書」第10章第25-37節)を常に黙想することを通じて私たちが見出すものなのです。つまり、例外なくすべての人に開かれた友愛を築きあげる愛について黙想することによってです。
ここにおいては、「構成的な関係(constitutive relationship)」という少し難しい表現が使われているが、その意味内容は必ずしも難しいものではない。人間にとって、他者との関係は、あってもなくてもよいようなただの偶然的な付加物なのではない。そうではなく、人間のアイデンティティは、他者との関係によって構成されている。まず私が確固とした輪郭を持った実体として存在し、それから他者との関係が始まるのではなく、他者との関係によってこそ私が私としての輪郭を持って立ち現れてくるのである。
