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「善きサマリア人」のたとえ話
このように述べたうえで、教皇フランシスコは、「善きサマリア人」のたとえ話に言及している。現代の移民問題を論じる中で、アウグスティヌスやトマス・アクィナスに由来する古典的な愛の理論が論じられ、更に遡って紀元後1世紀に書かれた新約聖書のテクストが援用されていく。
教皇フランシスコのこの文書に限らず、教皇の文書を読み解くことの大きな魅力の一つは、百年単位、千年単位の時間を超えて伝統と現代とを往還しながら骨太な思索が紡ぎ出されているところにある。現代のアクチュアルな問題意識のもとに古えの様々なテクストが呼び出され、生命を与え直される。そして、現代の問題関心の光のもとに生命を与え直された古えのテクストが、今度は逆に現代人の直面している問題を的確に捉え直すための光を投げかけていく。このような仕方で生き続けている古典の息吹きに触れ直していけることが、教皇文書に代表されるカトリック教会の公式文書の大きな魅力なのである。
