スマートフォンやパソコンを使う画面上でのやり取りが日常に深く浸透しつつある今、人々が直接会話を交わす機会が少なくなったようにも思える。まっすぐ人の目を見て話す事の貴重さを私たちは忘れつつあるのでは……。家族や友人と交わす会話の大切さとすばらしさを再発見、痛感させてくれるのが、特集上映「オスロ、3つの愛の風景」だ。ノルウェー映画『SEX』(2024年)、『DREAMS』(2024年)『LOVE』(2024年)の長編3部作が一挙公開される。
ノルウェーの首都オスロを舞台に、そこに住む人々の生活に細やかな目を向けたオリジナル脚本、そこからにじみ出る人間性が心を潤してくれる。作家でもあり脚本から手掛けた監督、ダーグ・ヨハン・ハウゲルード(以下、監督)に話をきいた。
◆◆◆
『SEX』――同性愛者でないのに「男性と関係を持った」と妻と同僚に告白した男
――最初から合計で6時間近くに及ぶ長大な3部作とする構想があったのだろうか?
監督 最初は1本目の『SEX』を1時間ほどで作る小企画だった。2人の俳優が芝居の稽古をしている感じで、資金が集まれば長編にしたいと考えていた。そんなとき、前作『BEWARE OF CHILDREN』を大変気に入ってくれていたノルウェー映画協会が、前作のような長編がいいと言ってくれ、現在の形に落ち着いたんだ。
もともと顔なじみの俳優を起用した映画が作りたかったんだ。全員を1本だけで起用するのが無理だったので、本数を増やせば好きな俳優たちと仕事ができると思った(笑)。彼らが演じることを想定して、脚本を書いたんだ。
昨年度ベルリン映画祭でエキュメカル賞を受賞した『SEX』は、煙突清掃員の男が、同性愛者でないのに男性と関係をもったことを同僚と妻に打ち明けるところから始まる。一方その同僚も、夢でデヴィッド・ボウイと出会い、女性として見つめられたと告白する。結婚とは? 男らしさとは? 家族とは? 話し合うほど2人の思いは揺らいでいく。正直に自分の気持ちを打ち明けあう会話が熱い。といって会話に理屈っぽさはなく、中学生の息子とクラスメートの女子のホンワカした関係など、多くの笑いが織り込まれている。
――2人の男の仕事である煙突掃除は、昔ながらの古めかしい職業に聞こえるが。
監督 オスロには古い建物が多いので、煙突掃除員が必要とされている。職場を背景にしようと思い、どんな職業がいいか検討し様々な職業の人に会って話をきいた。そのなかで煙突掃除員が特にハッピーな人たちだったんだ。
