21歳の2人が不文律を破った夜

 2020年8月17日、ナショナルズのソト(2025年はメッツ)がブレーブス戦の9回に本塁打を放って横歩きでゆっくりと打球を見送った。打たれたスミスはソトを怒鳴りつけて怒りを爆発させた。自らの打球に見とれるかのような姿が、不文律を侵しているとみなしたのだ。

 同じ夜、パドレスのタティスはレンジャーズ戦で10-3の8回にカウント3ボール0ストライクから満塁本塁打を放った。次打者への初球は背中を通るビーンボールで、レンジャーズの監督と投手は出場停止処分を受けた。大差の試合で、来ると分かっているストライクを打ったことを不文律破りとみなし、報復したのだった。

 ともに21歳でドミニカ共和国出身のスーパースター候補の2人が奇しくも同じ夜に不文律に触れたとされ、相手の怒りを買った。ESPNのオルニー記者はトーク番組で「ソトもタティスも投手を打ちのめすのが仕事。まず打たれないように投げるべきだ」と投手側を批判した。

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 これまでのケースと違ったのは、現役投手や元投手がソトとタティスの肩を持ったことだ。レッズのバウアー(2025年はDeNAベイスターズ)、カブスなどで活躍したデンプスターらがソーシャルメディアで不文律に疑問を呈した。当時現役だったマクヒュー(レッドソックス)は「何のルールにも反していない。自分は試合前に各打者が3-0から振る確率を調べている」と投稿した。

 若き強打者2人の行動が、同郷でもチームメートでもない投手たちの賛同を受け、長年の不文律を崩す決定打となった。選手が何の気兼ねもなくバットを放り投げ、拳を突き上げる新しい時代が到来したのだ。

 2021年にはパドレスで本塁打を放った選手の首に巨大なメダル「スワグ(偉そうな)・チェーン」を掛ける新たなパフォーマンスが生まれ、小道具を使ったベンチでの儀式という新しいレベルのパフォーマンスが各チームに広まった。