喜びを押し殺すのが、相手への尊敬なのか。米ニュージャージー州でリトルリーグの少年がバットフリップ(打撃後のバット投げ)をしたことで退場処分と出場停止処分を受け、大リーガーを巻き込んだ論争となった。
ドジャースの大谷翔平らスター選手のバットフリップを見慣れているファンとしては「なぜ」という思いになるが、実はバット投げを含む派手なアクションが大リーグで広く許容されるようになったのは、それほど昔の話ではない。感情の発露をいさめる野球独特の不文律は、この10年間で劇的に変わった。
「反スポーツマン行為」
7月16日にニュージャージー州西部で行われたリトルリーグの地区大会で12歳のロッコ君が2ランを放ってバットを放り投げた。AP通信によると、バットフリップが「反スポーツマン行為」であるとしてロッコ君は退場となり、次戦の出場停止を命じられた。
ニュースを知った大リーガーたちはすぐに反応した。チザム(ヤンキース)は「ばかげている」とニューヨーク・ポスト紙に語り、ベテラン投手シャーザー(ブルージェイズ)は「自然なリアクションで、野球にはいいこと。ピッチャーが三振でピンチを脱してガッツポーズをするようなもの」と処分に疑問を呈した。
ロッコ君の両親は、処分の仮差し止め訴訟を起こし、次戦の出場を勝ち取った。リトルリーグが公式アカウントでバットフリップを前面に出していることを指摘し、処分の矛盾を突いたのだ。チームは7月26日に敗退したが、地元紙によると、その試合でホームランを打ったロッコ君は、静かにバットを置いてダイヤモンドを回ったという。
伝説的バットフリップと大乱闘
リトルリーグの処分が10年前だったら、大リーガーは違った反応を見せただろう。これまでもっとも議論を呼んだ伝説的バットフリップは、2015年のポストシーズン、ア・リーグ地区シリーズ第5戦で起きた。3-3の7回にブルージェイズのバティスタが勝ち越しの3ランを左翼上段に打ち込んでバットを高々と放り投げた。レンジャーズはこの試合で敗退が決まり、打たれたダイソンは「ホセ(バティスタ)は落ち着いて、もう少し野球というゲームをリスペクトする方がいい」と話した。レンジャーズの先発投手ハメルズは「うちの選手はああいうことはしない」と不快感を示した。
本塁打王2度のバティスタは、プレーヤーズ・トリビューンに寄せた手記で「投手への軽蔑ではない。不文律を尊重していないわけでもない。その瞬間の感情に飲み込まれた。レンジャーズの何人かが反発したことは理解できる」と批判を受け止めながら、出身地のドミニカ共和国で野球は米国と違うスタイルでプレーされていると説明した。
