理想の最期について聞く「私の『大往生』」。第4回は作家の筒井康隆氏。昨年夏から神戸の高齢者施設で暮らす巨匠は、「死ぬまでの時間が退屈だから」と執筆活動を続ける。氏が生まれ変わったらなりたい意外な職業とは。
卒寿を迎えた文学界の巨匠・筒井康隆氏。65年に及ぶ作家人生で出版した作品は600冊以上。その中で、時にリアルに、時に戯画的に、「死」を目の前にした人間の様々な姿を描いてきた。人間は死といかにして向き合うべきか。筒井氏が大いに語った。
昨年の3月、家で転んで…
昨年夏から、神戸の高齢者施設で暮らしています。きっかけは昨年の3月、家で転んで頸椎を怪我したこと。それまでピンシャンしていたのに、一瞬にして体が麻痺してしまった。それで入院を余儀なくされたんですが、この病院がひどいもので、えらい目に遭いました。手足の痺れはよくならないし、あちこち痛くて「助けてくれ」と言っても看護師が廊下で笑っている。
こんなところはご免だと、1カ月後にリハビリテーション病院に移りました。この病院は素晴らしいところでしたが、何しろスポーツ選手も来るようなところだから、リハビリはきつかったですね。90歳を前に体が動かなくなったらそのまま寝たきり老人になってもおかしくないんだろうけど、歩行器を使った歩く練習やスクワット、平行棒、手先を使う訓練なんかをやらされ、車椅子で生活ができるまで、回復しました。
老人ホームといって思い浮かべるのは…
しかしいつまでも病院にいるわけにはいかないし、自宅に帰ろうにも車椅子では妻に介護の負担をかけることになる。
60年連れ添った妻と一緒に暮らせる老人ホームはないかと、嫁や担当編集者に探してもらい、いくつかの候補の中から選んだのがこの施設でした。
老人ホームといって思い浮かべるのは、戦前のフランス映画『旅路の果て』。舞台に立てなくなった役者ばかりが暮らす古い建物の中で、いろんな事件が起こる――。と、そんなところではありませんが、今は快適な生活を送っています。
〈この続きでは、高齢者施設での暮らしぶり、若い頃から繰り返し考えていた「死」について、息子・伸輔さんとの死別、生まれ変わったらなりたい意外な職業、未だ衰えぬ執筆意欲について詳しく語っている〉
「週刊文春 電子版」では、私の「大往生」連続インタビューをすべてご覧になれます。




