「朕とともに死んでくれとおっしゃったら、みんな死ぬわね」

『故旧忘れ得べき』(第一回芥川賞候補作)や『如何なる星の下に』で、すでに文壇に地位を築いていた高見順は戦争終結の日をこのように日記に記した。

「情報を聞こうとすると、ラジオが、正午重大発表があるという。天皇陛下御自ら御放送をなさるという。

 かかることは初めてだ。かつてなかったことだ。

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「何事だろう」

 明日、戦争終結について発表があると言ったが、天皇陛下がそのことで親しく国民にお言葉を賜わるのだろうか。

 それとも、――或はその逆か。敵機来襲が変だった。休戦ならもう来ないだろうに……。

「ここで天皇陛下が、朕とともに死んでくれとおっしゃったら、みんな死ぬわね」と妻が言った。私もその気持だった。

 ドタン場になってお言葉を賜わるくらいなら、どうしてもっと前にお言葉を下さらなかったのだろう。そうも思った。(中略)

 十二時、時報。

 君ガ代奏楽。

 詔書の御朗読。

 やはり戦争終結であった。

 君ガ代奏楽。つづいて内閣告諭。経過の発表。

――遂に敗けたのだ。戦いに破れたのだ。

 夏の太陽がカッカと燃えている。眼に痛い光線。烈日の下に敗戦を知らされた。

 蟬がしきりと鳴いている。音はそれだけだ。静かだ」(『敗戦日記』)