立入禁止のトンネルと踏切らしき残骸も…

 それでもところどころには工業団地のような一角もある。上信越自動車道がすぐ近くを通っていて、インターチェンジも点在する。

 高速道路は昔ながらの里山風景も一変させる力を持っている、ということなのか。

 
 

 そんな風景の中を、バスに乗ったり時に歩いたりして進んでゆく。屋代線廃線跡の旅のゴールは、長野電鉄の現役の駅・須坂駅である。

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長野電鉄の一大拠点「須坂」

 須坂駅そのものは、2面4線のホームに加えて留置線を多く持つ、長野電鉄の一大拠点のようなターミナルだ。

須坂駅

 駅前には須坂市の中心市街地が広がる。いまとなっては駅のホームからも屋代線現役時代の面影を辿るのは難しい。

 ただ、南側は留置用の線路をそのまま活かしたような、「河東線記念公園」という施設になっている。廃線跡を、現役時代の存在感を保ったままに転用している施設はここ河東線記念公園くらいといっていい。

 

 屋代線が廃止されたのは2012年のことだ。廃止の理由は言うまでもなく、お客がほとんどいなくなったから。並行して国道も通っているし高速道路まであるのだから、沿線に暮らす人も鉄道がなくなったとてさしたる不便はないのだろう。

消えた線路がつなぐ“新たな道”

 廃線跡は沿線の自治体に譲渡され、一部はそのまま放置され、一部は遊歩道にリニューアル。自転車で入れるところもあれば、自転車立入禁止のところもある。

 長野市・千曲市・須坂市と三市にまたがっているし、財政難の折に簡単な話ではないことはよくわかる。

 

 が、もしもこの廃線跡が全線とおしてサイクリングロードとして整備されたなら。約24kmというその距離は、初心者でも気軽にサイクリングを楽しめるほどよい距離だ。

 途中には、松代や川田といった見どころもある。長野らしくリンゴ畑が広がる風景も、また千曲川や盆地を取り囲む山も近い。なかなか見どころの多い、楽しいサイクリングロードになるのではないかと思うのだ。

 

 廃線跡のサイクリングロード。別に珍しくもないけれど、その道が廃線跡だと知っていれば、鉄道が現役だった時代にも思いを馳せながら駆け抜けることができる。

 ちょっとしたタイムスリップ気分の長野電鉄屋代線跡。善光寺平の片隅に、日本の辿った歴史の諸相が表に現れて残っている。

写真=鼠入昌史

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