混雑時のクラクションが死亡事故に発展

 渋滞によるイライラは、車内の険悪なムードにとどまらず、他のドライバーとの「路上トラブル」を引き起こすことがある。これは一般道のケースだが、過去には道路の混雑に起因するトラブルの結果、死亡事故にまで発展してしまった例もある。

 2014年11月5日、東京都町田市内のY字路で事件は起きた。

 当時23歳の男子大学生だったAは、脇道側から右折し本線に合流しようとするが、先の道路が渋滞で詰まっていたために交差点内で停止してしまう。これにより、本線の反対車線で信号待ちをしていた車の進路を塞いでしまった。

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 信号待ちの先頭には、当時45歳の男性会社員Bと、その7歳の娘が乗る車。Bは信号が青になってもAの車両が動かないことから、クラクションを小刻みに鳴らし、Aにバックするようジェスチャーで示す。ところがこれに腹を立てたAは、車を降り、Bの方へと向かっていった。

 この際、Aはサイドブレーキを引かず、ドライブギアのまま車を離れてしまっており、車両はそのまま進み、前方のガードレールに衝突。自車が傷ついたことでAはさらに逆上し、Bに向かって怒鳴りながら、全開になっていた窓から腕や顔を車内に入れて「ぶっ殺すぞ」などと怒声をあげる。

 Bは危機感からゆっくりと車両を発進させるが、Aが窓枠を掴んだまま並走し、再度「てめぇ、ぶっ殺すぞ」と怒鳴ってきたことから、さらに車を加速させる。結果、Aは速度についていけずに転倒し、頭部をBの車の後輪に轢かれ、脳挫傷などによりその後死亡が確認された。

Bは傷害致死罪で起訴されて…

 この件でBは傷害致死罪で起訴されるが、裁判ではAの侵害行為に対するBの正当防衛が認められた。Aが車に掴みかかっている状態で車を発進・加速させたBの行為そのものは、Aの生命を危険に晒すものであり、裁判でも「暴行の故意」が認定されている。一方で、Bの行為が自身と娘の身を守るための「逃走」を主な目的としていたこと、また発進後にAが車から手を放していれば同様の結果は回避可能であったことなど複数の条件が勘案され、正当防衛が成立し、無罪判決となっている(東京地裁立川支部、平成28年9月16日判決)。

 混雑した道路では、焦りや苛立ちから攻撃性がむき出しになるドライバーも少なくない。上のように、車両の動きが止まりがちになることから、クラクションひとつで路上トラブルに発展する可能性もある。

 冷静さを欠いた状態での「いつもと違う言動」は、それだけで本人や他人の人生を大きく変えてしまうことがある。たとえ苛立ちを覚えたとしても、決して一時の感情に身を任せず、まずは大きく深呼吸をしてから落ち着いて対処するようにしたい。

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