競技部の「代理受領」

 これぞ悪の温床なのですが、日大競技部には『代理受領』という仕組みがありました。学生が学費を学部に納めるのではなく、振込用紙を送って各競技部の口座に学費等を支払わせ、部が学部にまとめて払うというシステムです。私は会計係として経理、財務全般を担当していましたが、この仕組みがあるせいで、学生と競技部の間の金銭的やり取りがブラックボックスになっていました。

 競技部を束ねる競技スポーツセンターは、数年前からこの代理受領を表向き禁止していましたが、実際には黙認されていたのです。こんなシステムがまだ残っていたこと自体が異常なのですが、難波元監督ら競技部の幹部はこれを悪用して、奨学生を相手に不要な学費を上乗せした虚偽の納付依頼書をコーチに作らせ、学生に送っていた。その上乗せした分を懐に入れていたわけです。

重量挙部からAさんに送られた納付依頼書。第二種の奨学生として免除されるはずの「授業料(通年分)」80万円と「施設設備資金(通年分)」30万円の横にある備考欄に「2年目以降スポーツ奨学生として申請予定。1年目のみお支払いください。」と記載されている。また小誌が入手した第四種の奨学生Bさん宛の納付依頼書には「施設設備資金(通年分)」30万円の備考欄にのみ同様の文言が記され、下部には「〈納入金〉計1,185,000円を別紙振込先へお振込み下さい」と明記されている

 重量挙部がAさんに送った納付依頼書を見てください(上)。『入学金』26万円の下の『授業料(通年分)』が80万円、『施設設備資金(通年分)』が30万円。その横の備考欄には『2年目以降スポーツ奨学生として申請予定。1年目のみお支払いください。』と書かれています。この合計110万円が上乗せ分で、重量挙部の口座に残り、難波元監督の手にわたっていたのです。

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日本大学三軒茶屋キャンパス Ⓒ時事通信社

 奨学生は入学金、授業料、施設準備資金が免除される『第一種』、授業料と施設設備資金が免除される『第二種』、施設設備資金のみ免除される『第四種』に分類され、学生によって免除額は異なります。またAさんとは別の第四種の重量挙部所属の奨学生Bさんの依頼書には『施設設備資金(通年分)』30万円の備考欄にのみ同様の文言が記されていて、これが上乗せ分でした」

日大の回答は

 日大に事実確認を求めたところ、「本学ないし本学関係者が、山田氏の報告を受けて重量挙部の不正を隠ぺいしようとした事実も、パワーハラスメントを行った事実のいずれも全くありません」と回答。難波元監督が24年5月30日にAさんの保護者と面談し、隠蔽を図った事実については、大学側も事前に詳細な内容を把握しており、その後、理事長・学長名で元監督に自宅待機の命令を出し、1100万円の現金を回収し、その後、ホームページで逐次経過を報告。大学側の刑事告発に基づく捜査により、同元監督は逮捕起訴、再逮捕・追起訴されているとした。その上で「『山田さんによる内部告発が問題発覚のきっかけになった』という指摘は事実ではない」とし、大学側が保護者と連携して事案の解明に当たったものだと主張。難波元監督の不正についても「別件において前年(23年)11月から調査を実施」しており、Aさんの事案は四つ目の通報にあたるとした。

 この回答を受け、山田さんは、「前年から調査していたのなら、なぜ難波監督の不正を知りながら、AさんやBさんらの保護者たちに不要な『学費』を納めさせたのでしょうか。納得のいく説明にはまったくなっていません」と語った。

※本記事の全文(約9000字)は、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」と「文藝春秋」2025年9月号に掲載されています(山田俊太郎「〈内部告発〉日大会計係が見た運動部のドロ沼」)。全文では下記の内容をお読みいただけます。
・研究室に1100万円の現金
・「これはもう警察ものだ」
・「奨学生の話もナシになる」
・Aさんの母親が上京
・弁護士も「そうみたいですね」
・日大の回答は

出典元

文藝春秋

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