――大学院修了後は独立行政法人JICA(国際協力機構)に転職して、出張でスリランカへいかれたんですよね。

前川 初めてスリランカへ行ったときに、公共交通機関で陽気に歌ってる人がいたりと、心の底から笑っている人が多くて、人の温かさが強く印象に残りました。

 出張のたびに「もっと知りたい」という気持ちが大きくなっていって、現地に駐在したいと思い、数カ月後には外務省の試験を受けて、2017年からは在スリランカ日本大使館で働き始めました。

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外務省時代の前川さん。現地の軍人とのミーティングの様子

「体を見られるのが怖い、評価されたくない」という思いはなかなか消えなかった

――スリランカのどんなところが気に入ったのですか?

前川 人の温かさと、そこからくる生きやすさです。印象に残っているのは、女性たちがスリランカの民族衣装であるサリーを着て集まるイベントで、細身の人からふくよかな人までみんなが思い思いに堂々とポージングして無加工カメラで自撮りをたくさんしていたんですよ。

 しかも10枚ほど撮影した自撮りを加工もしないで全部SNSに載せていて、ほとんど同じ写真なので「全部同じ写真じゃない?」と聞いたら、「どれも気に入ってるから全部載せちゃった」と。一番かわいく撮れた1枚を選ぼうとか「いいね」が欲しいとか全然思ってないんですよね。それって本当に「推せる!」って思える瞬間だったんです。

――前川さんも自分の外見がどう見られるかを意識する頻度は減りましたか?

前川 留学時代の経験もあったしそうなりたいとは思っていたんですけど、すぐには変わらなかったですね。その頃には過激なダイエットはもう卒業していたんですけど、「体を見られるのが怖い、評価されたくない」という長年の思い込みは残っていて。それでサリーを着る時に、隠したい気持ちになったりしたこともあります。

 でもサリーを着ながらモジモジしている私に、現地の女性が「とっても綺麗なんだから、平気よ!」と笑いかけてくれて。

――ファッションの雰囲気も日本と違いますよね。

創業したkellunaのメンバーと。当時は黒髪で前髪を分け、なめられないための「きつめ」スタイルだった

前川 それも難しいところでした。日本人は幼く見えることが多いし、私はシンハラ語(スリランカの公用語の1つ)もそこまで流暢ではないので、起業の準備をしているときに交渉相手になめられたりするんです。

 それで、強く見えるように黒髪のかきあげヘアにきつめのメイクで“演出”をしてました。それもまたスリランカ社会の偏見に合わせて外見を変えることだったので抵抗はありましたけど、そのビジュアルも嫌いではなかったので、会社のためと思ってその時期は続けていました。